本研究の最終目標は、コエンザイムA(CoA)生合成経路の鍵酵素であるパントテン酸キナーゼ(CoaA)を用いてアシル基のキャリアであるCoAを増加させ、有用物質生産に結びつけることである。本申請ではCoaAによって細胞内CoAレベルが上がった大腸菌のCoA増産株を用いて、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(Acc)でマロニル-CoAに変換し、さらに増加したマロニル-CoAを脂肪酸合成酵素(Fas)で脂肪酸を生産することで、物質生産におけるCoAコファクターエンジニアリングの有用性を示すことを計画した。昨年度までに、大腸菌由来AccサブユニットをCoaAと大腸菌DH5α株で共発現させることにより、細胞内マロニル-CoAレベルを上昇させることに成功している。しかしながら、脂肪酸生産を検討するにはDH5α株の細胞内CoAプールサイズは小さすぎるという問題点が残されていた。 平成30年度は、脂肪酸増産試験の宿主をJM109株に、マロニル-CoA増産のためのAccを大腸菌由来からCorynebacterium glutamicum由来の酵素に変更して検討した。また、外来のFasにはC.glutamicum由来FasAを使用した。IPTG存在下でCoaA、Acc、およびFasAの共発現株を最少培地で37℃で72時間培養したところ、対照株のおよそ7倍の脂肪酸を生産し、FasAに起因するオレイン酸の生産も観察された。脂肪酸増産株を透過型電子顕微鏡で観察した結果、細胞膜の内側に白い層が存在し、薄層クロマトグラフィーの分析からリン脂質である可能性が示唆された。このように、細胞内CoAプールサイズの増大、アセチル-CoAからマロニル-CoAへの変換は脂肪酸生産に効果があることが示された。今後はCoAコファクターエンジニアリングの汎用性を検討し、本要素技術の有用性を確かなものにする必要がある。
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