本研究で使用したPseudomonas chlororaphis subsp. aurantiaca StFRB508株は、複数のアシル化ホモセリンラクトン(AHL)を介した細胞間情報伝達機構クオラムセンシングにより、抗菌物質フェナジン誘導体の生産を制御している。昨年度までの解析により、StFRB508株のフェナジン誘導体生産は、AHL-PhzR複合体を介したクオラムセンシングにより制御されることが明らかになったが、複数系統のクオラムセンシングが個々に制御する遺伝子の特定には至っていない。本年度は、これまでに作成したStFRB508株破壊株の中から、AHLレセプター遺伝子であるphzRとaurR破壊株において、クオラムセンシングが活性化した細胞密度の条件下でRNAを抽出し、StFRB508株のゲノム情報を基に作成したマイクロアレイを用いた遺伝子発現量の比較解析を行った。まず、phzR破壊株のmRNAを用いた結果では、これまでに明らかになっているフェナジン誘導体生合成遺伝子以外にも、カタラーゼやキチナーゼなどの酵素遺伝子の発現が大きく低下していることが明らかになった。次に、フェナジン誘導体生産を直接制御する事はないaurR破壊株のmRNAを用いた結果では、カタラーゼ関連遺伝子の発現は逆に上昇し、その他のトランスポーター系遺伝子の多くで発現低下が観察された。以上より、StFRB508株をモデルとしたクオラムセンシングの多重制御系において、様々な遺伝子発現が複雑なクオラムセンシングネットワークにより制御されることが明らかとなった。
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