研究課題/領域番号 |
16K07663
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金丸 京子 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (00420365)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 糸状菌 / 環境応答システム / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
糸状菌Aspergillus nidulansおよびAspergillus oryzaeの環境応答システムを分子レベルで解析することで、培養方法の改善あるいは環境ストレス耐性株の取得による生育促進が可能になり、糸状菌の物質生産性を高めることができると考える。本研究では、糸状菌の生育にミトコンドリアが重要な役割を担うことに着目した。近年同定した環境応答調節因子を利用してミトコンドリア機能を改変し、環境ストレスに影響されない植物性バイオマス分解酵素の安定生産を試みることを目的とする。前年度の解析から、環境応答調節因子であるHysAの欠損株の分生子柄において、ミトコンドリア膜電位が低下していることが観察され、HysAの欠損株において活性酸素種が発生することと関連がある可能性が考えられた。HysAの変異株を培養すると、高い頻度で分生子形成が低下した株が出現する。生育環境に応じて膜電位を調節できないと障害が発生し、新たに別の変異が生じると考えられる。本年度は、その変異場所を同定し、変異株に発生した障害を推定することにした。さらに、その緩和もしくは除去によって正常な分生子形成の維持を試みた。糸状菌の生育分化にミトコンドリア機能が重要であることを理解するために、ミトコンドリアに局在し、活性酸素種を無毒化するスーパーオキシドジスムターゼ(Mn-SOD)の欠損株を作成し解析した。SOD欠損によって、ミトコンドリアでのROS発生、発芽伸張のばらつき、分生子形成の低下を確認し、HysA変異株よりも顕著な生育への影響を観察した。SOD欠損株からは分生子形成が回復した復帰変異株も取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境因子HysAの変異株から分生子形成能が低下した変異株が得られた。ミトコンドリア膜電位の低下にともなって発生した活性酸素種(ROS)が分生子形成に重要な因子の機能変化を引き起こしたと考えられる。遺伝子上に変異が生じた結果であれば原因を同定することが可能と考えた。しかしながら、得られた変異株の分生子形成の低下は野生株と比べてあまり顕著な変化ではなかったため、原因を同定することが困難であった。環境因子によるミトコンドリア機能調節が特定の条件下で起きるため影響が限定的あったと考える。そこで、ミトコンドリアで常時ROSを発生させるために、ミトコンドリア内で発生したROSを無毒化するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の欠損株を作成した。その結果、ミトコンドリア機能低下と分生子形成の低下が確認された。SOD欠損株からは分生子形成の復帰株も取得された。現在得られている復帰変異株はSOD欠損によって発生するROSを低下させいなかった。SOD欠損によるミトコンドリア機能低下に依存しない経路の促進によって分生子形成を回復したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリア機能を利用して麹菌固体培養を改良する。植物性バイオマスの糖化酵素(セルラーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼ)を高生産する麹菌Aspergillus oryzaeは、米ぬかや小麦フスマの固体培養で良好な生育を示す。しかし、固体培養槽の内部は、低酸素、低栄養、あるいは物質の流動性が低いため部分的に高浸透圧の状態で、一定環境が保たれていないストレスな環境である。麹菌においてもミトコンドリア機能改変を行い、環境変化に影響されない固体培養で糖化酵素の生産性が向上するか検討する。そのために、SOD欠損の復帰変異株の変異部位を同定することは重要で、麹菌固体培養においてもミトコンドリア機能低下による分生子形成の減少を防止することが可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金については、前年度の研究成果を論文投稿中で、論文掲載費分の経費を使用できなかった。旅費については、参加した学会の開催場所が名古屋であったため使用しなかった。29年度の後半から、研究設備として設置されていた顕微鏡の検出カメラに不具合が生じ、新規に購入する必要が生じた。30年度の費用と併せてカメラ購入を計画している。
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