Clostridium cellulovoransは菌体外に「セルロソーム」と呼ばれる酵素超複合体を生産し、バイオマス中の多糖類を高効率に分解することのできる有用微生物である。本研究ではC. cellulovoransにおいて、どのようなタンパク質がどのように多糖類を認識して酵素群の発現制御を行っているか、といった一連の情報伝達・転写制御機構の全体像を分子レベルで解明する。これにより、本微生物のバイオマス分解戦略について新たな知見を見出すとともに、自然に学ぶ形で他の有用微生物に本微生物の分解戦略を導入することによって、広範なバイオマスからの高効率な有用物質生産といった産業面での貢献にもつながる点で意義深い。4種類の植物構成多糖(セルロース、キシラン、ガラクトマンナン、ペクチン)とグルコースのそれぞれを唯一の炭素源として培養し、菌体外に分泌されるタンパク質と菌体タンパク質をそれぞれ経時的に回収し、経時的プロテオーム解析を行った。菌体タンパク質においてはセルロソームを構成するセルロソーマルタンパク質が培養時間の経過とともに減少し、分泌タンパク質においてはセルロソーマルタンパク質が培養時間の経過とともに増加していることを明らかにした。したがって、培養時間の経過に応じて菌体表面からC. cellulovorans が培養上清中にセルロソームを分泌していることが示唆された。また、分泌タンパク質のネットワーク解析の結果から、分泌プロテアーゼとセルロソーマルプロテアーゼインヒビターが協調的に発現していることも明らかにした。このことから培養上清で協調的に発現している分泌プロテアーゼと分泌セルロソーマルプロテアーゼインヒビターは植物のプロテアーゼや抗微生物タンパク質を阻害・分解することで、植物から菌体やセルロソームを防御していることが推測された。
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