研究課題/領域番号 |
16K07665
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川口 秀夫 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命准教授 (50463873)
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研究分担者 |
寺村 浩 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 学術研究員 (10645089) [辞退]
蓮沼 誠久 神戸大学, 先端バイオ工学研究センター, 教授 (20529606)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオマス / 発酵阻害 / 大腸菌 / 代謝解析 / 芳香族化合物 / 発酵 / ソルガム / 代謝工学 |
研究実績の概要 |
本研究では、大腸菌による発酵生産がバイオマス中のリグニン由来化合物により顕著に阻害される現象に着目している。バイオマス由来化合物による発酵阻害を克服して大腸菌による芳香族化合物発酵を飛躍的に効率化するために、芳香族化合物生合成における基盤代謝であるシキミ酸経路の“発酵阻害”メカニズムの解明を研究している。 芳香族化合物代謝の発酵阻害物質を特定するために、バイオマスに由来する成分とその発酵阻害作用への関与を調べる。イネ科C4植物であるソルガムをモデルバイオマスとし、複数系統の残渣を資料として成分組成を比較する。また、その酵素糖化液を炭素源とする大腸菌による発酵生産への影響を調べることで、シキミ酸代謝物のものづくりに対する発酵阻害成分(群)の特定を試みる。 本年度は、バイオマス植物として優れたソルガムを選定するために、リグニン生合成に関与するbmr遺伝子に変異あり/なしのソルガム系統16種を材料に茎部を1%希硫酸で前処理し、その残渣をセルラーゼで酵素糖化し、糖化液に含まれる発酵阻害候補化合物の濃度を比較した。また、昨年に続き、前処理残渣(バガス)の物理化学的特性を、組成分析(セルロース/ヘミセルロース/リグニン比)と、表面電荷(ゼータ電位)測定、XPS(X線光電子分光法)による表面化合物種の測定により比較した。 さらに、糖化液に含まれるフェニル乳酸発酵の阻害物質を明らかにするため、酵素糖化液においてその存在を定量的に明らかにした発酵阻害候補化合物を化合物種別に5グループに分類し、各グループ化合物の添加がフェニル乳酸発酵に与える影響を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実バイオマス(リグニン成分含量が異なる複数の植物系統品種)を材料に、①成分分析による発酵阻害物質の特定、②発酵生産のメタボロームによる阻害作用点の特定、③阻害作用点の代謝改変による発酵阻害の克服、の3つの研究項目を実施する。これらの研究課題を通じて、高付加価値化合物である芳香族化合物をバイオマスから効率的に生産するための基盤宿主を創出することを企図している。 課題1.「発酵酵阻害物質の特定」では、16品種のソルガムを対象に、原料となるバガスの物理化科学的特性の評価とその酵素糖化効率、また生成した酵素発酵液に含まれる発酵阻害候補化合物の含量を調べた。得られたデータをもとに主成分分析および因子解析を行った結果、近縁種間でグループを形成し、大別すると3つのグループに分類させることが明らかとなった。また、酵素糖化液で検出された発酵阻害候補化合物をその構造から5種追に分類して各化合物種の発酵阻害作用の容量依存性を調べた結果、特定の化合物種で件所な阻害作用が認められた。 課題2.「発酵阻害作用機序の解明」では、異なる遺伝型を有する大腸菌を作製し、発酵阻害への感受性を評価した。その結果、特定の遺伝子の発現により、課題1で明らかにした発酵阻害物質に対する感受性を緩和できることを明らかにした。
課題3.「発酵阻害耐性代謝経路の構築」では、課題2で発酵阻害の緩和に効果が認められた候補遺伝子を個別に、あるいは組み合わせて発現させた大腸菌の作製に取り組んでいる。次年度は、作製した組換え菌を用いて糖化液からの発酵性能を評価することで、発酵阻害耐性代謝経路の構築を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
課題3“発酵阻害作用点の特定”の遅れにより、続く課題4“発酵阻害耐性代謝経路”の構築にも遅れが生じている。発酵阻害作用点の特定が予想以上に困難であったことの理由は、発酵阻害候補化合物の組成の違いがソルガム品種間で僅かであったこと、あるいは品種間の成分多様性により阻害成分の特定が容易でなかったことに由来する。そこで、当初計画通りに研究課題が進行しなかった場合に想定していた対策を選択するに至った。課題1.で特定した発酵阻害物質の標品を添加した “モデル発酵阻害培地”を作成し、フェニル乳酸発酵の阻害状態における代謝プロファイルを添加化合物間で比較することにした。 モデル発酵阻害培地を用いたフェニル乳酸発酵の生産性評価では、特定の化合物種において顕著な添加容量依存的な発酵阻害作用が認められた。この力価試験で各化合物種のIC50(50%阻害濃度)を決定できた。そこで今後は、この各化合物種のIC50条件におけるメタボローム解析によって代謝プロファイルを比較することで、各化合物種間での発酵阻害作用点および阻害機序を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中の消費税率の変更に伴い、いくつかの消耗品で予定外の価格変更があり、購入を見合わせたものがあるため。
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