既に粘液細菌は種々のストレス負荷により、細胞内のジアデノシン4リン酸(Ap4A)やジアデノシン5リン酸(Ap5A)濃度を数倍から5倍程度増加させること、細菌にのみ存在するApnA分解酵素であるApaHの遺伝子欠損株では野生株の30%程度のAp4A、Ap5A分解酵素活性が見られたこと、apaH変異株は胞子形成の大幅な遅延が見られたことを報告している。ApaHは主たる分解酵素であるが、本菌にはApaHの他に真核生物のAp4A、Ap5A分解酵素であるNudix hydrolaseもAp4A及びAp5Aを分解すると考え、本菌の10種のNudix hydrolaseの酵素活性を測定した。その結果、Nud2と名付けたNudix hydrolaseにおいて最も高い分解活性が見られたが、ApaHに比べkcatが70倍低く、また本酵素は酸化されたdGTPやdATPを最も良い基質としたことから、大腸菌で発現できなかった2つのNudix hydrolaseがAp4AやAp5Aを分解していることも考えられた。 Ap5Aは、アデニル酸キナーゼの阻害剤であることから、粘液細菌が有するアデニル酸キナーゼ(AdkA)、アデニル酸キナーゼ活性を有するポリリン酸キナーゼ1とポリリン酸キナーゼ2ホモログタンパク質を用いてアデニル酸キナーゼ活性に及ぼす影響を調べた結果、全ての酵素のアデニル酸キナーゼ活性は、Ap5Aによって阻害され、Kiは0.004-0.005 mMであった。アデニル酸キナーゼはATPを用いてAMPをADPに変換できるため、エネルギーの恒常性において重要な酵素であることから、ストレス時に生成されるAp5Aは細菌にとっては好ましくない生成物のため、分解酵素によって細胞内の濃度は低く保たれていると考えられる。apaH変異株が胞子形成の遅延を示したのは、細胞内Ap5A濃度の増加が原因であると考えられた。
|