研究課題/領域番号 |
16K07674
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小松 護 北里大学, 感染制御科学府, 講師 (40414057)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放線菌 / 線状プラスミド / 二次代謝産物生産 / 異種発現 / 接合伝達 |
研究実績の概要 |
放線菌Streptomyces avermitilisの大規模欠失体 (SUKA) を宿主とした二次代謝産物の異種生産系において、100 kbを超える様な巨大な生合成遺伝子群の場合、接合伝達性の線状プラスミドSAP1をベクター(SAP1.3; SAP1::attB_phiC31-attB_R4-attB_TG1-attB_phiK38-1-attB_phiBT1)として用いることで、比較的容易に導入できる。本研究では、導入した遺伝子群の安定的保持を目的として、SAP1.3に導入した種々の二次代謝産物生合成遺伝子群を含むファージ由来の組込み型ベクターを染色体上へ移動することを試みた。そこで我々は、溶原化ファージの宿主ゲノムからの切り出しに関与するexcisionase (Xis)を利用すれば、SAP1ベクター上の組込み型ベクターが切り出され、SUKA内在性のattBを介して、ベクター上にコードされるIntegrase(Int)の触媒によって染色体上へ部位特異的に移動できると推測した。そこで、lactacystin生合成遺伝子を含む5種(phiC31, R4, TG1, phiK38-1, phiBT1)の組込み型ベクターを保持するSAP1.3をSUKAに導入した後、各ファージから見出したxisを強発現した。得られた接合体について、パルスフィールド電気泳動による制限酵素消化パターンの解析ならびにサザン解析を行った結果、xis遺伝子の導入の有無にかかわらず、内在性のattBを介してSAP1ベクター上から染色体上へ部位特異的に転移していた。この事は、Intが逆反応活性を有しており、SAP1.3上の組込型ベクターの切り出しに関与すること、また、切り出された組込み型ベクターが、再度Intの触媒によって、部位特異的にSUKAの染色体上へ組込まれたと判断された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度においては、ファージの溶原化ならびに宿主ゲノムからの切り出し機構を利用して、SAP1ベクター上から染色体上へ二次代謝産物生合成遺伝子群を移動する系の構築を目指した。大腸菌のラムダファージに代表される、tyrosine integraseをモデルにした解析から、バクテリオファージの溶原化はintegraseの触媒によってファージ染色体上のattPと宿主染色体上のattBの部位特異的組換えによって生じ、また、ファージ染色体上のxis遺伝子がコードするexcisionase (Xis)はIntとの相互作用により、宿主染色体からファージ染色体を切り出す反応を触媒することが一般的に知られている。一方で、今回使用した5種のファージ(phiC31, R4, TG1, phiK38-1, phiBT1)が有するintegaraseは、ラムダファージとは異なり、serine型である。serine integraseを保持するファージにおいても、ラムダファージの知見と同様に、切り出しにはXisが関与することがphiC31をモデルにした解析によって示されている。しかしながら、我々のこれまでの解析から、それらserine integraseが組込みと切り出しの両方の反応を触媒する可能性が強く示唆された。この事は基礎生物学的に新しい知見であり、非常に興味深い。すなわち、SAP1ベクター上から染色体上への二次代謝産物生合成遺伝子群の移動は、それらserine integraseの活性によって、可逆的かつ自発的に進行することが示され、xis遺伝子を強制発現する必要がないことが明らかとなった。この結果、当初の予想とは異なっていたが、平成28年度の目的を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度において、二次代謝産物生合成遺伝子を含む組込み型ベクターをSAP1ベクターから染色体上へ移動する事に成功した。平成29年度においては、コンビナトリアル生合成を容易に評価する系の構築を行う。具体的には、SAP1を脱落させる手法の開発を目的とする。SAP1ベクターから、染色体上に生合成遺伝子群を移動することが可能となったため、染色体上へ生合成遺伝子を移動した後、再度、新たにSAP1ベクターを用いて、異なる生合成遺伝子を導入できれば、I型PKSやNRPSを含むような、巨大な生合成遺伝子クラスターを利用したコンビナトリアル生合成を評価する系を構築することができると推測した。しかしながら、SAP1を保持する株に対して、SAP1ベクターを再度導入する場合、不和合成により、接合効率が約千倍以上低下するため、一度、SAP1を脱落させる必要がある。これまで、プラスミドの分配に関与するSAP1上のparA遺伝子の破壊により、SAP1が簡単に脱落する事を確認している。parAの破壊には、CRISPR/Cas9システムを利用する。CRISPR/Cas9ゲノム編集技術は、2本鎖DNAの目的領域を特異的に剪断する技術であり、遺伝子編集のための技術として広く利用されている。2015年に、CobbらによってStreptomyces属細菌においても、CRISPR/Cas9が利用できることが報告されている。そこで、平成29年度では、Cas9タンパクが触媒するparA領域の部位特異的剪断によってSAP1を脱落させる系の構築を行う。
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