研究課題
大腸菌が宿主の口から侵入し腸に到達するには強酸性の胃を通過する必要がある。そのため、酸耐性能は大腸菌にとって非常に重要な機能である。大腸菌の酸応答性センサーである EvgS は活性化すると多くの酸耐性遺伝子群の発現を誘導して菌に酸耐性能を付与するが、その活性化機構は未だ解明されていない。本研究では、細胞内外の pH と EvgS の活性化に着目し、種々の培養条件下での両者の関係を検討することで、EvgS の活性化機構の解明を目的としている。当該年度では、大腸菌細胞内 pH を測定するために、細胞内で発現させた変異型 pHluorin(M153R) の蛍光強度を種々の pH 下で測定して検量線を作成した。作成した検量線をもとに細胞内 pH を測定したところ、EvgS を活性化させる M9, pH 6 の培地の pH を塩酸で合わせた場合には EvgS は活性化したが、酢酸で pH を合わせた場合には EvgS は活性化しなかった。このとき、細胞内 pH を測定すると、塩酸の場合は細胞の恒常性が働き中性に近い pH であったが、酢酸の場合は pH 6 以下に低下していた。また、酸素濃度を減らした微好気培養を行った場合も EvgS の活性化が抑えられ、細胞内 pH が低下した。以上の結果より、酸性 pH によって EvgS が活性化するには細胞膜をはさんだプロトン勾配が関与していることが示唆された。細胞内外の pH と EvgS の活性化との関連を残りの2年間でさらに詳細に検討する。また、EvgS の活性化に関わる大腸菌内因子の探索として、異なる二成分制御系である RcsC/RcsD/RcsB 系のレスポンスレギュレーターである RcsB を欠失させた株と EnvZ/OmpR 系のレスポンスレギュレーターである OmpR を欠失させた株で、EvgS/EvgA 系の活性化が起きないことを確認した。これらの二成分制御系が EvgS/EvgA 系にどのように関連しているかを今後検討する。
3: やや遅れている
本研究の目的である EvgS 活性化測定と大腸菌細胞内 pH の測定系の構築が終了し、培地に強酸を添加した場合と弱酸を添加した場合での EvgS の活性と細胞内 pH が測定できるようになった。この測定系の構築および測定機器の準備に想定以上の時間がかかってしまい、当該年度に計画していた EvgS 付近の局所 pH の測定および EvgS の活性を制御する因子の探索が実施できなかった。これらに関しては、すでに実験の予備検討を行っており、平成29年度に精力的に進める予定である。
平成28年度に引き続き、EvgS の活性化と細胞内 pH との関連を詳細に検討する。また、平成28年度に実施予定であった EvgS 付近の局所 pH の測定および EvgS の活性を制御する因子の探索を行いながら、EvgS/EvgA 系と他の二成分制御系 (RcsC/RcsD/RcsB 系、EnvZ/OmpR 系) との関連を Bacterial two-hybrid assay などで検討する。
当該年度の研究の進捗がやや遅れており、当初予定していたトランスポゾンの購入および学会発表を延期したために次年度使用額が生じました。
次年度使用額を平成29年度の当初請求額に加えて、物品費(試薬、消耗品)、旅費(学会発表)および人件費(実験補助)として使用する。
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