研究課題/領域番号 |
16K07681
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
江口 陽子 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (30757422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸応答 / ヒスチジンキナーゼ / EvgS / センサー / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
大腸菌の酸応答性センサーであるEvgSは活性化すると多くの酸耐性遺伝子群の発現を誘導して菌に酸耐性能を付与するが、その活性化機構の詳細は解明されていない。本研究は、細胞内外のpHとEvgSの活性化に着目し、種々の培養条件下での両者の関係を検討することでEvgSの活性化機構の解明を目的としている。前年度は細胞内pHの測定条件を確定し、酸素濃度を減らした微好気培養を行うとEvgSの活性化が抑制されることを見出した。当該年度では、振とう(好気)、静置(微好気)、嫌気培養に対するEvgSの活性化を検討し、微好気培養よりさらに酸素濃度の低い嫌気培養下でEvgSが全く活性化しなくなることを見出した。この3種の培養条件における菌の細胞内pHを測定すると、好気、微好気培養では培養開始2時間以降に細胞内pH が 7以下に低下するのに対し、嫌気培養では1時間後にすでに7以下に低下しており、pHが 7 以下になると活性化が停止するのではないかと考えられた。しかし、細胞内pHの差は小さく、pH 以外に酸化還元状態がEvgSの活性化に関与するのではないかと思われた。膜タンパクであるEvgSの細胞質側にはPASドメインが存在する。PASドメイン内の3つのCysをそれぞれAlaに置換して測定したところ、 C671A と C683A において嫌気状態での活性化抑制が緩和された。還元状態で PASドメイン内の S-S結合が切断されてヒスチジンキナーゼ活性が変化する報告例があり、EvgSにおいても PASドメイン内のS-S 結合が活性調節に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、異なる二成分制御系である EnvZ/OmpR 系を詳細に検討したところ、EvgS/EvgA系に関連がないことが判明し、EnvZ/OmpR系の検討は中断した。次に Rcs系の検討に移る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度に明らかになった還元状態と EvgS の活性化抑制は、細胞質内領域の PASドメインの重要性を示しており、本研究の目的である EvgS の酸による活性化機構の解明につながるものではないかと考えている。今後の研究計画に変更は生じるが、前向きの変更であると捉えている。一方、他の二成分制御系との関連に関しては、有力な候補として考えていた EnvZ/OmpR系の検討を中断し、本年度は Rcs系の検討に重点を置く予定である。このため、ネットワークの解明の部分が遅れていることから、総合して「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に明らかになった還元状態 EvgS の活性化抑制についてさらに検討を進める。EvgS の活性を測定するのに、レポーターアッセイだけではなく、細胞内でのリン酸化状態の測定を試みる。また、抑制機構へのユビキノン、メナキノンなどの因子の関与も検討する。一方、EvgS の酸による活性化において PAS ドメインの果たす役割を明らかにしたい。また、Rcs 系と EvgS/EvgA 系との関わりを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に行った学会発表が関西地方で多かったため、旅費が予定より少なく、次年度使用額が生じた。次年度使用分は試薬や消耗品などの物品費としての使用を計画している。
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