研究課題
大腸菌の酸応答性センサーである EvgS は多くの酸耐性遺伝子群の発現を誘導して菌に酸耐性能を付与するが、その活性化機構の詳細は解明されていない。本研究は、細胞内外の pH と EvgS の活性化に着目し、種々の培養条件下での両者の関係を検討することで EvgS の活性化機構の解明を当初の目的とした。EvgS 活性化条件である pH5.7 を酢酸で調整すると EvgS が不活化して細胞内 pH が低下したこと、嫌気条件で培養したときも EvgS が不活化して細胞内 pH が低下したことから、細胞外が pH5.7 で細胞内が pH7 以下になると EvgS が不活化することが示唆された。そこで培地中に添加する安息香酸濃度を変化させることで細胞内 pH を 7.6 - 6.5 に段階的に調節して EvgS 活性化を検討した。その結果、少量の安息香酸の添加によってEvgS は不活化したが、その時の細胞内は pH7.5 であり、細胞内外に pH の差が存在していても EvgS は不活化されることが判明した。今後、安息香酸による EvgS の不活化機構を明らかにすることで、EvgS の酸性 pH による活性化機構を解明したい。さらに、本研究では、EvgS 活性に影響を及ぼす新たなシグナルとして、酸化還元状態を見出した。EvgS の活性化には、酸性 pHとアルカリ金属イオンに加えて好気条件も必要である。好気条件の感知には EvgS の細胞質側に位置する PAS ドメイン内の2つのシステイン残基 (C671, C683)が関与し、細胞膜中の酸化型ユビキノンによって生じた S-S 結合が活性化に必要であるというモデルが示唆された。今後、このモデルを in vitro の系において検証し、EvgS における酸性 pH の感知と酸化還元状態の感知との関連をさらに検討したい。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 83 ページ: 684-694
10.1080/09168451.2018.1562879