研究課題/領域番号 |
16K07687
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
殿塚 隆史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50285194)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオマス / 担子菌 / 糖質加水分解酵素 |
研究実績の概要 |
本研究は、担子菌Coprinopsis cinereaのバイオマス分解に関与する二種類の機能未知酵素CcGH131AおよびCcGH131Bおよび関連酵素について構造と性質を解明することにより、バイオマス分解に果たす機能を明らかにすることを目的とする。平成28年度は以下の研究を行った。 1. CcGH131Aについては、等温滴定カロリメトリーを用いどのような糖と反応するか測定を行った。野生型酵素とキシランを用いて実験を行ったところ、吸熱反応となり測定することができなかった。これは、野生型酵素の場合基質と結合した後何らかの酵素反応が起こる結果であると考えられた。そこで、触媒残基と考えられるグルタミン酸138をアラニンに置換した変異酵素E138Aを構築し測定を行った。その結果、CcGH131Aはキシランに対して反応が見られたが、キシロテトラオースに対する反応は見られなかった。 2. CcGH131Bについては、結晶に各種糖をソーキングし、どのような糖が結合するか見るためX線結晶構造解析を行った。その結果、キシロオリゴ糖のソーキングにおいて、触媒クレフトにキシロビオースと考えられる電子密度が二つ存在していることが判明した。糖質加水分解酵素と生成物との複合体の立体構造は、通常、多数の水素結合による相互作用が観察される。CcGH131Bとキシロビオースの複合体においては、水素結合はあまり存在せず、枝があるような糖を認識しているように思われた。キシロビオース結合部位は、CcGH131Aの相当する部位に比べて深いクレフトが形成されていることが分かった。 3. 関連する酵素としてC. cinereaのバイオマス分解酵素CcAbf62Aなどの立体構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CcGH131AおよびCcGH131Bが分類される酵素ファミリーGH131に属する酵素は、多くの子嚢菌および担子菌が有している。GH131に属する酵素で唯一活性が報告されているものは子嚢菌Podospora anserinaのPaGluc131Aしかない。このPaGluc131Aは、幅広い種類のβ-グルカンに対して分解活性を示すと報告されている。しかしながら、他の酵素の特異性がどのようなものなのか全く分かっていなかった。 本研究によって、CcGH131A、CcGH131Bともβ-グルカンではなくキシロースで構成される糖に対して作用する可能性があること、および、CcGH131AとCcGH131Bの糖結合部位の構造には差があることから、両者の特異性はかなり異なることが明らかになった。本研究で用いたキシランは、枝構造を有するヘテロな多糖の混合物である。また、CcGH131Aはキシロテトラオースには反応しなかったことから、どのような構造を持つ糖に作用するのか直接的な同定は達成していないが、立体構造解析から多糖の枝構造のような複雑な構造を認識する可能性が考えられた。 以上のことから、CcGH131AとCcGH131Bとも特異性はPaGluc131Aとは異なり、GH131に属する酵素には多様性があることが示された。本研究は、これまでさまざまな研究によっても機能がよく分からなかった酵素であることから、その機能を完全に明らかにするのは難しく比較的挑戦的な研究であると言え、今回キシロースで構成される糖に対して作用する可能性を見い出したことから、標記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次の課題として、どのような構造を持つ糖に作用するのか直接的に同定することが目標となる。CcGH131Bにおいては、立体構造解析によりキシロオリゴ糖が結合することが明らかになった。しかしながら、大腸菌による発現量はそれほど多くないことから等温滴定カロリメトリーを用いた実験には至っておらず、どのような条件でどのような結合や反応が起きるのか判明していない。このため、各種発現プラスミドを用い、さらなる大量発現の構築を行う。さらに、触媒残基のグルタミン酸161をアラニンに置換した酵素E161Aの構築を行い、各種糖との複合体の立体構造解析や等温滴定カロリメトリーによって、CcGH131Bの糖に対する反応について詳細な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は予算計画に対して98.37%の執行と、34,162円の残額はあるもののほぼ計画どおりである。本研究は機能未知酵素の研究であり、解析を行った結果から機能を推定し、推定した機能を解析するための試薬を購入していくというような方法で研究を遂行しているため、試薬については当初の計画とは多少異なるものを購入する場合が発生するため、上記の残額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額については、平成29年度に試薬の購入のための物品費とすることを計画している。
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