研究課題/領域番号 |
16K07689
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥 公秀 京都大学, 農学研究科, 助教 (10511230)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オートファジー / カルジオリピン / 脂肪滴 / ペルオキシソーム |
研究実績の概要 |
本申請研究においては、細胞内小器官(オルガネラ)の健常性を維持するための分子機構を、特にオートファジーと脂質に着目して解き明かすことが主たる目的である。 オートファジーは、細胞質成分をリソソーム(液胞)に輸送して分解する仕組みの総称であり、ミトコンドリア、ペルオキシソーム等の活性酸素種発生の場となるオルガネラの機能維持に寄与すると考えられているが、その詳細には不明な点が多い。本年度の研究ではメタノール資化性酵母Pichia pastoris のペルオキシソーム内に変異型ペルオキシレドキシンタンパク質を導入することで、オルガネラ内部の酸化還元状態を変化させることに成功し、この際にペルオキシソームを標的とするオートファジーが誘導されることを見いだした。 中性脂質蓄積の場となる脂肪滴は、細胞の置かれた状況によりその量が増減することが重要であり、その減少のメカニズムとして細胞質局在リパーゼによる中性脂質分解、リポリシスがよく研究されてきたが、本機構とオートファジーの関連に不明な点が多い、本年度の研究から、オートファジー機能タンパク質の1つ Atg8が、出芽酵母においてリポリシスを抑制する作用をもつことを明らかにした。 また、ミトコンドリア特有のリン脂質であるカルジオリピンの機能維持機構に関しても重要な知見を得た。カルジオリピンの脂肪酸鎖部分は不飽和脂肪酸が優先的となっていることがその機能に重要であるが、本年度の研究から、大腸菌において発現・精製された、出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae由来ミトコンドリアタンパク質Taz1の持つ、カルジオリピン前駆体に不飽和脂肪酸を転移する活性が、飽和脂肪酸を転移する活性よりも顕著に高いことを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オートファジー機能タンパク質Atg8が持つ、脂肪滴分解機構(リポリシス)抑制効果を見いだした研究成果は、従来ほとんど報告のない、オートファジーとリポリシスの関連性を明らかにした点において重要な意味を持つと考えている。 ミトコンドリア脂質カルジオリピンの機能維持に関して、本年度の研究結果から得られた知見は、当該研究分野において重要性を有している。従来、ミトコンドリア内のカルジオリピン生合成過程の中で、どの反応において不飽和脂肪酸が優先的に組み込まれた状態がもたらされるのか、については確かな知見がなかった。これは、カルジオリピン前駆体への脂質転移酵素であるTafazzinの精製および活性評価法が完成されておらず、本酵素の実態把握ができていなかったからである。今年度の研究で出芽酵母のTafazzinであるTaz1の酵素学的性質が明らかとなったことにより、カルジオリピンの不飽和脂肪酸組み込みによる機能維持の分子機構が明確化したといえる。 ペルオキシソームとオートファジーの関連についても、本年度の研究結果は今後の研究進展となる重要な礎となったと言える。これまでのペルオキシソームに対するオートファジー研究では、代謝経路の変換などにより量的に過剰となったペルオキシソームを対象とするオートファジーの分子機構解明が進められてきたが、本年度の研究で、ペルオキシソームの酸化還元状態を変化させることでもオートファジーの誘導が見られたことは、本オルガネラの質調節(quality control)にオートファジーが重要な働きを持つことを強く示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
ペルオキシソームの酸化還元状態変化とオートファジーの関連研究については、ペルオキシソーム状態変化に伴い本オルガネラ表面にリクルートされる分子の探索を行う。一般にオルガネラ特異的オートファジーの誘導に際しては、オルガネラ表面局在因子(アダプター)とオートファジー機能タンパク質(Atgタンパク質)との結合が促進することが知られている。その引き金としてはアダプター因子の翻訳後修飾、特にリン酸化が見られることが多いため、ペルオキシソーム状態変化に際しても、リン酸化酵素などの関与が考えられる。Pichia pastorisはメタノールを単一炭素源とした培養でペルオキシソームを顕著に発達させるため、本オルガネラを精製するのに適している。そこで、本酵母の通常株と酸化還元状態操作株の両方からペルオキシソームを単離し、その表面に結合しているタンパク質の網羅的に比較するプロテオーム解析を行う。酸化還元状態操作株のペルオキシソームに顕著に結合するタンパク質を同定し、そのタンパク質欠損株を作成して、ペルオキシソームを対象とするオートファジーの活性を比較する。 カルジオリピンの機能維持の分子機構解明については、出芽酵母のTaz1において確立した方法を援用し、ヒトTafazzinのリコンビナント発現タンパク質の精製と酵素活性評価を行う。ヒトTafazzinのアミノ酸変異はバース症候群と呼ばれる疾患の原因となるため、この疾患において乱されているアミノ酸変異をリコンビナントタンパク質に導入し、通常型Tafazzinとの活性比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の学会参加が国際会議含め、全て国内開催であったことから、旅費の支出を当初計画より抑制することができた。 また、実験受託にかかる費用や、研究論文の成果報告のための費用を抑制することができたことから、「その他」のカテゴリーに当たる費用支出を抑制するすることことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展により、次年度は解析に要する消耗品の費用負担が増大することが予想されるため、その費用負担のために次年度使用額を有効活用する予定である。
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