緑色植物型の光化学系II(PSII)に特有な膜表在性タンパク質であるPsbPに関して、そのタンパク質相互作用と分子機能解析を行った。まずPsbPのPSII複合体における結合様式に関して、スピンラベル法と再構成実験を用いたPELDOR測定により、新しい結合様式を提唱した。また、PsbPのN末端配列と相互作用するシトクロームb559の酸化還元電位に、アンチマイシンAが作用することを見出した。さらにクラミドモナスpsbP変異体にHisタグ付きのPsbP遺伝子を形質転換することで、機能相補とHisタグを介したPSII複合体のアフィニティ精製が可能であることを示した。最終年度はさらに、PsbPのループ領域に存在するアミノ酸残基がPSIIとの相互作用と水分解-酸素発生反応に重要であることを、in vitro再構成実験とクラミドモナス形質転換実験により明らかにした。加えて、PsbPの原核生物型ホモログであるPPL1に関して、詳細な生化学的解析を行うとともに、遺伝子欠損変異体(ppl1-2)を新たに単離して分子機能解析を行った。PPL1は葉緑体チラコイド膜のストロマラメラ領域とグラナ境界領域に分布し、PSII分子集合の中間体だけでなく、集光タンパク質(LHCII)にも相互作用することが示唆された。実際、ppl1-2では、PSIIの最大量子収率Fv/Fmが弱光条件でも低く、ステート遷移におけるLHCIIのPSIIからの解離も早いなど、PSIIコア複合体とLHCIIの相互作用が不完全であることが示唆された。その結果、ppl1-2は自然光などの変動する光環境での生育が野生株に比べて劣っていた。 以上の結果から、緑色植物の進化の過程で、原核生物型のPsbPホモログがN末端配列やループ領域などを新たに獲得してPsbPとなり、PSII膜表在性タンパク質として水分解-酸素発生反応を調節する仕組みが解明された。さらに原核生物型のPsbPホモログ自体もPPL1として緑色植物の光環境適応に重要であることを示した。
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