研究課題/領域番号 |
16K07691
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中井 忠志 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00333344)
|
研究分担者 |
岡島 俊英 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (10247968)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 翻訳後修飾 / 補酵素の生合成 / ラジカルSAM酵素 / 分子内チオエーテル架橋 / 環状ペプチド / キノヘムプロテイン / ビルトイン型キノン補酵素 / 酵素触媒機構 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質の翻訳後修飾反応により形成される新規ビルトイン型キノン補酵素、システイントリプトフィルキノン(CTQ)を含むキノヘムプロテイン・アミン脱水素酵素(QHNDH)を対象として、多段階の翻訳後修飾反応によるQHNDHの生合成プロセスの全容の解明を目的とする。さらに、QHNDHの生合成に関わるペプチド分子内チオエーテル架橋形成酵素QhpDを用い、生理活性を有する新規な多環状ペプチドを創製し応用展開も目指している。 ラジカルSAM酵素はS-アデノシルメチオニン(SAM)と鉄硫黄クラスターを用いてラジカルを生成し、各種の難化学反応を触媒する。その一つであるQhpDは、QHNDHのγサブユニット(QhpC)内の特定のCys残基と、GluまたはAsp残基間にチオエーテル架橋を3ヵ所形成する。一般的にペプチドは環状化により様々な生理機能が付与されることが知られており、分子内架橋によりペプチドを環状化するQhpDの触媒機構を解明することは、新規の機能性環状ペプチドを創出することに繋がると期待される。これまでに、QhpDを用いて、リーダー配列と1つの架橋部位のみから構成された短縮型QhpC(sQhpC)のin vitro架橋反応系を確立した。しかしながら、sQhpC内で直接的に架橋反応を受けるCysとGlu残基にはさまれた領域(架橋ループ)の配列や長さを変更しても架橋が形成されるのかは不明であった。そこで、QhpDの基質特異性を明らかにするため、複数のsQhpC変異体を基質として架橋形成反応を解析した。その結果、架橋ループ内の変異体では形成速度は低下したが、架橋は形成されることが判明した。さらに架橋ループが5, 7, 8残基では架橋形成されたが、9残基以上では架橋形成されなかった。この結果から、架橋ループが長すぎなければ、任意の配列が環状化される可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したとおり、QhpDの基質特異性の解析により、架橋ループの長さが適切であれば、任意のアミノ酸配列をもつループがチオエーテル架橋により環状化される可能性が示された。このことはQhpDが新規の機能性環状ペプチドを創出するための有用なツールとなることを示唆するため、QhpDの応用展開という面では重要な成果が得られたといえる。その一方で、QhpDの研究を特に優先させたために、QHNDHの生合成機構の研究については、大きな進展は得られなかった。以上の成果を総合すると、「おおむね順調に進展している」が妥当であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)引き続きQhpDの基質特異性の解析を行う。これまでは単独の架橋をもつ場合の基質特異性しか調べられていなかったが、複数個の架橋を形成する場合の基質特異性について解析を行い、任意の配列をもつ多環状ペプチドの生合成を目指す。 (2)ラジカルSAMファミリーQhpDの結晶構造解析:QhpDの原子レベルでの反応機構解明を目指して、γサブユニットとの複合体を含むQhpDの結晶化を試みる。精製などと同様に嫌気チャンバー内で、結晶化から液体窒素への凍結保存まで行う。X線回折測定可能なサイズの結晶が生成した場合には、データ収集を行い、結晶構造を決定する。位相決定は、鉄硫黄クラスター中の鉄原子の異常分散により、容易に行えるものと期待される。最終的に、QhpDの機能解析の研究結果も総合し、鉄硫黄クラスターが関与するチオエーテル架橋形成機構の詳細を解明する。 (3)試験管内反応系を用いたCTQ補酵素およびQHNDH生合成の再現:これまで構築に成功しているγサブユニット前駆体とQhpDの試験管内反応系に、その他のQHNDH生合成酵素群を加えることで、次のステップのγサブユニット前駆体(3本のチオエーテル架橋をもち、リーダー配列はもたない)が得られるか検討する。さらに、この試験管内反応系に、単独で発現精製したαサブユニットを加え、CTQ生成におけるαサブユニット依存性を調べる。このようにして、全ての翻訳後修飾反応を試験管内で再現することで、活性をもつQHNDHの生成を検討する。
|