研究課題
平成28年度は,耐熱性シトクロムc’(PHCP)のNO結合能を向上することを目的として,以下の研究を実施した。(1)耐熱性PHCPのNO結合能の分光測定まず,大腸菌を宿主にコドン最適化を図ったPHCP遺伝子を異種発現させた。さらにNO濃度を変えてPHCPのガス結合に伴うスペクトル変化を追うことでその結合能を評価したところ,常温菌由来の相同蛋白質であるAVCPよりもPHCPのガス親和性が低いことが明らかになった。また,好冷菌からも相同蛋白質SVCPを調製し,熱に対する安定性はPHCP及びAVCPよりも低くなるものの,ガスに対する親和性が3種の中でもっとも高くなることを見出した。以上の3種の蛋白質の安定性とガス親和性には逆相関があると推定した。(2)好酸性ユスリカヘモグロビンの探索好酸性ユスリカChironomus sulfurosusの幼虫をpH7およびpH2で飼育し,それぞれ10g程度を得た。それぞれからmRNAを抽出し,ヘモグロビンアイソフォーム遺伝子の発現量に違いがあるかどうか知るために,mRNA配列解析を外注した。その結果,本ユスリカは20種程度のヘモグロビン遺伝子を有し,そのうち酸性条件下で高発現するものが数種類あることが分かった。さらに,同mRNA配列解析からは,酸性条件で発現が上昇するその他の遺伝子も見つかり,酸性環境適応のメカニズムを知るための研究の端緒となる可能性を見出した。また,研究分担者の河合幸一郎(広島大学教授)は,国内各地から好酸性ユスリカを新たに採集しその継代飼育に成功した。現在,新たに得られたユスリカ幼虫の酸性条件下の成育特性を調査中である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究実施内容は,代表者及び分担研究者,両者の得意とする研究手法を適用できたため,「おおむね順調」と自己評価した。(1)耐熱性PHCPのNO結合能の分光測定のサブテーマに関しては,その前提となるSCI論文を2017年に発表することができたので,実績として客観的に順調に進展していると評価してもよいと考える。(2)好酸性ユスリカヘモグロビンの探索のサブテーマに関しては,mRNA配列解析に成功しているため,現在原著論文を作成中である。
平成29年度以降は,当初の計画通り,(3)好酸性ユスリカヘモグロビンの性質,及び(4)耐熱性PHCPのNO結合能向上に取り組む予定である。(3)については,平成28年度時点で酸性条件下で発現量が増加するヘモグロビンが同定できているので,それを大腸菌を宿主に用いて高発現する。さらにそのヘモグロビンのガス結合能及び立体構造に関する情報を得る予定である。なお,(3)は平成29年度に完了する予定である。また,(4)については,(3)の結果を参考に,PHCPのガス結合能を向上させる蛋白質工学研究を平成30年度に展開する予定である。
本課題の追加交付を受けた時点までに,本研究課題で必要としていた物品を他の研究費によって購入していたため,次年度使用額が生じた。
好酸性ユスリカヘモグロビンを平成28年度で同定できているので,平成29年度はその性質を調べるために使途する。また,新規好酸性ユスリカを採集できているので,そのmRNA解析実験を実施するために支弁する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Biosci. Biotech. Biochem.
巻: 80 ページ: 2365,2370
10.1080/09168451.2016.1232155