研究課題/領域番号 |
16K07695
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
郷田 秀一郎 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (00346587)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | レクチン / 孔形成毒素 / 溶血性 |
研究実績の概要 |
ナマコの一種であるグミは溶血性レクチンCEL-IIIを持つ。CEL-IIIは多量体化して孔を形成し、3つのドメインのうちドメイン3が多量体化に関与すると考えられている。ドメイン3はStem, Wrapping, Scaffold, Terminalの4つからなり、それぞれの部分を欠損させた変異体を作成し、その多量体化に与える影響を解析した。平成28年度はCEL-IIIのStem部位を欠損させたもの、Stem及びWrappinngを欠損させたもの、ドメイン3を全て欠損させたドメイン1及び2のみの発現系の構築、タンパク質の生産、種々の溶液条件下でのX線小角散乱測定を行った。すべての欠損変異体の大腸菌を宿主に用いた発現系の構築に成功し、タンパク質の生産及び精製を行った。その結果、Stem部位を欠損させたもの、ドメイン3を全て欠損させたドメイン1及び2のみの生産、精製に成功した。それらを用いて多量体化を引き起こす高塩濃度、高pH、糖及びカルシウム存在下での多量体化をX線小角散乱測定によって解析した。その結果、Stem部位を欠損させたものはTris緩衝液中でもRg値が約100Åとなり、多量体化溶液中ではRg値は約70Åとなった。ゲルろ過の結果からは目的タンパク質は単量体の位置で溶出されており、Tris緩衝液中では単量体と多量体の混合物として存在していると示唆され、また、自発的に多量体を形成しやすく、糖の存在下でよりコンパクトな構造に変化していると示唆された。一方、ドメイン3を全て欠損させたドメイン1及び2では、Tris緩衝液中及び高pH溶液では単量体として存在しているものの、塩濃度を高めることで凝集体を形成していた。このことは、ドメイン1,2のみでは単量体として存在しているが、塩濃度が高まると構造変化を引き起こすものの安定した多量体構造を形成できないことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的タンパク質であるCEL-IIIの欠損変異体発現系の構築に成功し、2種の変異体ではタンパク質の精製及びX線小角散乱測定を行うことに成功している。特にCEL-IIIの膜孔形成に重要な役割を果たしているドメイン3の一部分を欠損したものでの多量体化をX線小角散乱測定によって解析しており順調に進んでいる。多量体化に大きく寄与していると考えられるドメイン3の一部の欠損が多量体化に与える影響を解明することで膜孔形成における構造変化の解明につながるものと期待される。多量体化機構の解明は、異なる溶液条件下でのタンパク質の異なる立体構造形成機構の解明につながる学術的価値をもつことが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度はCEL-IIIのドメイン3の欠損変異体に関する実験を行い、一定の成果を得ることができている。欠損変異体の研究に関しては平成29年度も引き続き行い、特に動的光散乱測定によるタンパク質の構造変化の測定、赤血球を用いた溶血活性測定を行う。 また、本申請のもう一つの課題である孔形成部分の部位特異的変異体の作成を行う。その変異体作成および諸性質の解明を行うことによって本タンパク質の大きな特徴である、多量体化に伴う二次構造変化の解明を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
設備備品費としてペリスタリックポンプ、UV モニター一体型クロマトグラフィーシステムを初年度に購入する予定であったが、現在使用しているものが使用可能なため購入していない。しかしながら、平成28年度末に経年劣化により故障したため29年度に修理して使用する予定で、修理費用の支出を予定している。物品費、旅費に関しては、概ね申請通り支出した。
|
次年度使用額の使用計画 |
物品費、旅費に関しては、申請通りの支出を予定している。購入予定であったペリスタリックポンプ、UV モニター一体型クロマトグラフィーシステムは、現在使用しているものが経年劣化によりポンプが故障したため、その修理に支出をする。
|