研究課題/領域番号 |
16K07698
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
山本 憲二 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (70109049)
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研究分担者 |
加藤 紀彦 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40724612)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオ医薬品 / 糖鎖 / エンドグリコシダーゼ / 糖転移反応 / エンド-M / インターフェロン-γ / Pichia pastoris |
研究実績の概要 |
申請者らは土壌より単離同定した糸状菌Mucor hiemalisの特異なエンドグリコシダーゼ(Endo-β-N-acetylglucosaminidase、Endo-M)の糖転移活性を活用したタンパク質への糖鎖の付加やすげ替えの技術を開発し、糖鎖を有する多くの生理活性物質の生産に成功している。本研究では、この酵素的技術を用いることによって、酵母を宿主として生産された組換えバイオ医薬品の糖鎖を均一な構造の糖鎖に変換し、動物細胞で生産された先発品と品質が全く変わらないバイオシミラーの生産を企てるとともに、糖鎖構造を変えることによってより優れた薬効が期待できるバイオベターの生産を試みる。当初は、組換えヒトIgGについて、産業技術総合研究所の千葉靖典博士より遺伝子の提供を受けて当研究室にて、酵母Pichia pastorisを宿主とした組換えヒトIgGの生産を計画していたが、準備不足のため、提供を受けたSaccharomyces cerevisiaeを宿主とした組換えヒトIgGについてグライコシンターゼ様の効率的な糖鎖付加を行う変異酵素Endo-M-N175Qを用いることによってIgG糖鎖のリモデリングの技術開発を進め、ヒト型糖鎖を有したヒトIgGの効率的な生産を目指した。その結果、ヒト型糖鎖であるシアロ複合型二本鎖糖鎖をIgGのFc領域に持つヒトIgGを得ることに成功した。さらにヒト由来のサイトカインであるインターフェロン-γ(IFN-γ)を酵母Pichia pastorisで発現させた組換えバイオ医薬品について、ヒト型糖鎖へのリモデリングを試みた。その結果、酵母を宿主とするIFN-γの発現に成功し、Endo-Hによって酵母型の糖鎖を切断遊離することに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、糖鎖のリモデリングの対象である組換えヒトIgGについて、遺伝子の提供を受けて、酵母Pichia pastorisを宿主とした組換えヒトIgGの生産を計画していたが、先ず、提供を受けたSaccharomyces cerevisiaeを宿主とした組換えヒトIgGについて糖鎖のリモデリングを実施することにした。すなわち、酵母の組換えヒトIgGにEndo-Hを作用させて結合している高マンノース型糖鎖を一残基のN-アセチルグルコサミン残基を残して遊離した後、シアロ複合型二本鎖糖鎖のオキサゾリン化合物を供与体として、グライコシンターゼ様の変異酵素Endo-M-N175Qによって糖転移反応を行い、電気泳動により分析後、ヒトIgGに対する抗体を用いてWestern blottingをしたところ、シアロ複合型糖鎖を有するIgGの生成を見出した。また、シアル酸に特異的なSNAレクチンによるブロッティングによっても確認した。この結果は、酵母により発現された組換えバイオ医薬品をヒトに適応したバイオ医薬品に変換できることを示したものである。続いて、バイオ医薬品であるヒト由来インターフェロン-γ(IFN-γ)をPichia酵母によって生産し、得られた組換えIFN-γの糖鎖のヒト型糖鎖へのリモデリングを試みた。既報のヒトIFN-γのアミノ酸配列から酵母発現用に塩基配列を最適化した合成DNAを外注し、これを酵母用ベクターpPICZαAにInfusion法で導入して、メタノール資化性酵母Pichia pastoris KM71株へエレクトロポレーション法により形質転換を行った。グリセロール含有培地で30℃にて培養後、メタノール含有培地に移してIFN-γを発現誘導し、次いでこの組換えIFN-γにEndo-Hを作用して高マンノース型糖鎖を遊離し、これを受容体として糖転移反応を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
酵母Pichia pastorisを宿主とした組換えヒトIFN-γの糖鎖のEndo-M変異酵素によるリモデリングを行って、酵母で大量生産されたバイオ医薬品をヒトに適合したヒト型糖鎖を有するバイオ医薬品に変換する方法を確立する。一方、動物細胞によって生産される抗体医薬IgGは糖鎖結合部付近の還元末端のN-アセチルグルコサミン残基にフコースが結合したコアフコース含有糖鎖が見出されるが、このような糖鎖を除去すると細胞傷害活性(ADCC活性)が飛躍的に高められるという事実から鑑みて、Endo-Mがこのような糖鎖に対して加水分解活性を発揮することができれば有用性が増大する。しかし、Endo-Mはコアフコース含有糖鎖に対しては全く加水分解活性を示さない。そこで、Endo-Mの基質が入り込む活性中心のポケットを大きくした変異酵素を部位特異的変異によって取得し、コアフコースを有する糖鎖に対しても加水分解作用することを企てる。他起源の微生物のEndo-β-N-acetylglucosaminidaseであるEndo-AおよびEndo-Dの基質特異性と結晶構造の比較解析から、部位特異的変異酵素を数種類作成し、コアフコースを有する糖鎖に対しての作用を調べる。コアフコースを有する糖鎖に対して作用が可能な変異酵素を得ることができれば、動物細胞によって生産されたヒトIgGのコアフコース含有糖鎖を遊離して、ADCC活性の向上について調べる。また、その糖転移活性を利用することにより、さまざまな構造の糖鎖を持つ生理活性物質の合成を試みる。活性中心のポケットを大きくして広い基質特異性を獲得することができれば、その特異的な糖転移活性を用いて、さまざまな糖鎖の異なる生理活性物質のライブラリーを作成することも可能であり、糖鎖構造の多様性による化合物の機能や薬効の評価をすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が若干生じたのは当初、IgGの遺伝子を酵母Pichia pastorisにクローニングする予定であったが、準備不足のためにこれをとりやめた。従って、クローニング操作実験のための支出が先送りになったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の29年度において上記のクローニングを行う計画であるので、これを使用する予定である。
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