研究課題
キチンは,N-アセチル-D-グルコサミン (GlcNAc) のポリマーで,甲殻類,昆虫,真菌類などのキチン含有生物の主要な構成成分である。ほ乳類は二種類の活性を有するキチナーゼ,キトトリオシダーゼ (Chit1) と,酸性ほ乳類キチナーゼ (AMCase),を発現している。我々は,AMCase が,ブタの消化系条件下において,多量の内在性ペプシン A と C の存在下で,主要な糖質分解酵素として機能することを示した。我々は,qPCR システムを用い,ブタの組織において,キチナーゼと対照遺伝子の発現レベルを定量した。Chit1 mRNA は目で高く発現していた。一方,AMCase mRNA は胃で特異的に発現しており,そのレベルはハウスキーピング遺伝子よりも顕著に高かった。ブタの胃から AMCase を精製し,その酵素学的性質を解析したところ,ブタ AMCase は pH 2.0~4.0 付近で活性が最も高く,pH 7.0 まで活性を保持していた。また,AMCase は,pH 2.0 でペプシン,pH 7.6 でトリプシン・キモトリプシンの強力なプロテアーゼ活性に対し耐性を持っていた。AMCase は,高分子量キチン,ミールワーム幼虫の殻に含まれるキチンを分解し,(GlcNAc)2 を生成した。さらに, 胃の抽出液中の内在性 AMCaseが,ペプシンとともに,ハエの翅のキチン質の分解を可視化した。したがって,ブタ AMCase は,胃のみならず,腸における幅広い pH において,プロテアーゼ耐性のキチン分解酵素として働くことが出来る。以上の結果は,キチン含有生物が,持続可能なブタ飼料として利用できる可能性を強く示した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の目標であった、マウスとブタでの解析が終了した。さらに、計画していなかったニワトリ、イヌ、ウシについても研究を進め、解析を終了した。これらについても論文が受理されている。そこで、研究を非ヒト霊長類のカニクイザルに展開している。研究論文をまとめ、国際学術雑誌に投稿した。
非ヒト霊長類のカニクイザル (Old World Monkey)、マーモセット (New World monkey) について、酸性ほ乳類キチナーゼが消化酵素として働いているかどうかを検証している。平成30年度もさらに研究を進め、論文をまとめる。
(理由)他の外部資金が採択されたため、本研究の遂行がスムースに進みました。次年度の外部資金の採択が不明確だったため、次年度使用額が生じました。(使用計画)抗体の作成、各種動物組織の購入、DNA の塩基配列の決定、DNA オリゴヌクレオチドの合成、タンパク質解析試薬の購入、論文掲載費で使用予定です。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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