研究課題/領域番号 |
16K07700
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
亀村 和生 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (00399437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | O-GlcNAc / グリコシル化 / FETタンパク質 / FUS / EWS / TAF15 / 前頭側頭葉変性症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、FETタンパク質ファミリーの生理機能スイッチングに関与する翻訳後修飾を同定することにより、そのマルチ機能制御メカニズムに迫ることである。平成29年度の研究実施計画に基づき、前年度に実施した研究において見出したFETタンパク質に起こる翻訳後修飾の特徴をもとに、FETタンパク質の細胞ストレス応答性の細胞内動態変化と翻訳後修飾の相関性解析を展開した。FETタンパク質のうちでEWSに選択的なグリコシル化に注目し、EWSのグリコシル化サイト、あるいはモチーフを絞り込んだ。この際、野生型EWS、およびFUS、ならびにそれぞれの変異体を発現するコンストラクトを作成し、過剰発現系を用いてグリコシル化の有無を解析した。その結果、グリコシル化サイトはEWSのlow complexity (LC)ドメイン内にあることがわかった。そして、FETタンパク質のLCドメイン間のマルチプルアライメント解析から見出された、EWSのLCドメインに特有の領域を欠損する変異体を発現するコンストラクトを作成した。そして、同様に過剰発現系を用いたグリコシル化解析を行ったところ、EWSのLCドメインに特有の領域に主要なグリコシル化サイトが存在することが明らかになった。これと並行して、高浸透圧や高熱などの細胞ストレスに対するFETタンパク質の感受性を解析したところ、FETタンパク質のうちEWSだけがストレス耐性を示したことから、EWSはグリコシル化されることによって、他のFETタンパク質よりも分子安定性が高まっており、これによりストレス耐性を獲得している可能性を見出した。これを裏付けるための予備検討として、EWSのLCドメインに特有の領域を欠損する変異体のストレス感受性を解析したところ、ストレス耐性が有意に低下しており、グリコシル化はEWSにストレス耐性を付与している可能性が高いことを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に実施した研究において、FETタンパク質のうちでEWSに特有の翻訳後修飾としてグリコシル化を見出した。これまでのFETタンパク質ファミリーに関する知見によると、FETタンパク質は、高いドメイン構造相同性を有し、類似したメカニズムにより機能調節がなされていると考えられていた。これに対し、本研究の成果は個々のFETタンパク質に特有の機能調節メカニズムが存在することを示唆しており、FETタンパク質ファミリーの機能調節メカニズムに関する新たな研究の方向性を明示することができた。平成29年度に実施した研究では、内在性FETタンパク質で見出した前年度の成果をさらに詳細に検討するため、各FETタンパク質をクローニングし、ほ乳動物細胞発現プラスミドを作成した。そして、一過性発現FETタンパク質についても、内在性FETタンパク質と同様、EWSに選択的かつ化学量論的に高いグリコシル化が起こることを示した。その上で、EWSの主要グリコシル化サイトを含む領域を限定し、グリコシル化はEWSに高浸透圧や高熱などの細胞ストレスに対する耐性を付与している可能性が高いことを示した。このことは、前頭側頭葉変性症において、EWS以外のFETタンパク質が異常封入体を形成する原因タンパク質になっている、という病態を理解するための分子メカニズムの解明に繋がる有意義な知見である。よって、概ね平成29年度の研究実施計画を達成し、期待していた成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28、および29年度の研究実績を踏まえ、当初に設定した平成30年度の研究実施計画のうち、特にグリコシル化に注目し、FETタンパク質分子間に細胞ストレス応答性の差異を生ずるメカニズムを詳細に解析する。平成28年度に実施した研究において見出した、FETタンパク質のうちでEWSに選択的なグリコシル化に注目し、まずはグリコシル化サイトを同定する。平成29年度に実施した研究において見出した、EWSの主要グリコシル化サイトを含む領域に存在するグリコシル化サイトと予想されるセリン、スレオニン残基のアラニン置換体を作成し、グリコシル化の有無を解析する。EWSのグリコシル化サイトを同定後、グリコシル化の有無による細胞ストレス感受性について、免疫染色、ならびに生化学的分画により解析し、EWSの細胞内動態や細胞ストレス応答性に及ぼすグリコシル化の働きを検証する。これと併せて、FUSならびにTAF15の細胞ストレス応答性についても精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として\1,261の研究費を生じた。これについては、次年度研究実施計画の更なる充実を図るため、次年度に請求させていただく研究費に加算し、消耗品費として特に生化学関連試薬の購入に充てさせていただきたい。
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