細菌の細胞質膜に局在するABC輸送体は、基質の輸送サイクルに応じて立体構造を変化させる。また、その構造変化に伴い、ペリプラズムの基質結合タンパク質や、輸送基質、細胞質ATPなどのリガンドとの結合状態(親和性)も変化する。これまでにスフィンゴモナス属細菌A1株由来アルギン酸ABC輸送体(AlgM1、AlgM2、AlgS、AlgSのヘテロ4量体)と基質結合タンパク質AlgQ2との複合体の結晶構造(定常状態:基質輸送前)を明らかにしている。 輸送中間状態の構造を調べるために、輸送中のサブユニット間にジスルフィド結合を導入し、構造変化の制御を試みた。変異AlgSを含むアルギン酸ABC輸送体は、野生型と同様に4量体構造をとり、かつ、還元剤存在下でATP加水分解活性を示したが、酸化剤存在下ではAlgSの部分分解が見られた。 一方、ペリプラズムの基質結合タンパク質AlgQ2にはカルシウムイオンが結合しているが、その生理的意義は明らかではない。A1株のアルギン酸取り込みにおけるカルシウムイオンの役割を明らかにする為、基質結合タンパク質AlgQ2の立体構造に基づき、カルシウムイオン欠失変異体を作製した。本変異体は非常に不安定であったが、アルギン酸と結合することにより安定化し、野生型と同様に、ABC輸送体と相互作用し、その構造変化を引き起こすことによりATP加水分解を促進した。その活性は野生型AlgQ2を用いた時と同等であったが、添加する変異型AlgQ2の濃度を下げると活性が減少するという違いがあった。アルギン酸結合型の変異型AlgQ2の結晶構造では、カルシウムイオン結合部位周辺の構造がフレキシブルになったが、全体構造に変化は見られなかった。以上より、カルシウムイオンは特にリガンド非結合型のAlgQ2の構造を安定化させ、その構造安定化を通じてABC輸送体の活性に影響を及ぼす可能性が考えられる。
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