研究課題/領域番号 |
16K07706
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研究機関 | 独立行政法人酒類総合研究所 |
研究代表者 |
水谷 治 独立行政法人酒類総合研究所, 研究部門, 主任研究員 (10443996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 麹菌 / ゲノム編集 / 人工ヌクレアーゼ (TALEN) / DNA 修復 / ligD |
研究実績の概要 |
現在までに、麹菌において人工ヌクレアーゼ (TALENs) を用いて非相同末端結合 (Nonhomologous end joining : NHEJ) の修復エラーを利用したゲノム編集を行うと、得られた欠失変異株の半分程度で 1 kb 以上の大規模な欠失が引き起こされることを見出している。従来、酵母や他の高等生物では数 bp の欠失が起きるのが一般的であり、この大規模欠失は、麹菌を含む糸状菌に特有な機構であることが示唆される。そこで本研究では、麹菌において、このメカニズムに関与する遺伝子を同定し、なぜゲノム二本鎖切断時にこのような大規模欠失を伴った修復エラーが起きるのかを明らかにすることを目的としている。 大規模欠失が引き起こされる理由として、NHEJ 修復経路以外の修復機構、例えば、5 ~ 25 ヌクレオチドのホモロジー領域を利用するマイクロホモロジー媒介末端結合 (microhomology-mediated end joining : MMEJ) 等の影響が強い可能性を予想し、まず始めに NHEJ 修復経路の末端結合に必要な ligase をコードする ligD 遺伝子破壊株を用いて、TALENs による NHEJ の修復エラーによるゲノム編集を試みた。その結果、ligD 遺伝子破壊株でも野生株とほぼ同程度の割合で、ゲノム編集による変異が観察され、興味深いことに、野生株で観察された大規模欠失が、ligD 破壊株では部分的に抑制されていた。つまり、当初の予想とは逆で、ligD 依存的な NHEJ 経路が麹菌の大規模欠失に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
麹菌において、TALENs を用いたゲノム編集時に大規模欠失が引き起こされる理由として、NHEJ 修復経路以外の修復機構、MMEJ 修復機構等の alternative な NHEJ 修復機構の関与を予測していたが、NHEJ 経路の構成因子である ligase をコードする ligD 遺伝子破壊株を宿主に、TALENs を用いて行ったゲノム編集では、大規模欠失が部分的に抑制された。予想では、麹菌 ligD 破壊株宿主では、酵母や他の高等生物で、ゲノム編集時に見られる数 bp の欠失が抑制されると考えていたが、興味深いことに逆の結果となった。今後は、大規模欠失に関与する遺伝子を、NHEJ 修復経路に焦点をあて、構成因子遺伝子破壊株の造成と、それらを宿主としたゲノム編集を行っていく。また、予想外の結果であったが、この結果を論文にまとめ、無事受理された。
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今後の研究の推進方策 |
麹菌において、TALENs を用いたゲノム編集時に引き起こされる大規模欠失の原因が、ligD 遺伝子依存的な NHEJ 修復機構 (classical-NHEJ : c-NHEJ) にあることが予想されたので、麹菌野生株 (RIB40) を宿主に c-NHEJ 修復経路の構成因子遺伝子群の破壊株造成に着手する。麹菌野生株の相同組換え効率は、非常に低いため、TALENs 又は CRISPR/Cas9 のゲノム編集技術を利用して、効率よく破壊株の取得ができるように、現在、その予備検討を行っている所である。加えて、多重破壊も考慮し、Cre-loxP system を用いたマーカー遺伝子のリサイクリングも検討していく。その後、造成した破壊株群を宿主に TALENs を用いたゲノム編集を行い、欠失領域を詳しく調べていく予定である。一方、他の Aspergillus 属における CRISPR/Cas9 を用いたゲノム編集では、大規模欠失の報告はされていない。これは、CRISPR/Cas9 による切断が平滑末端であり、TALENs との切断様式と異なるため、大規模欠失の有無に繋がるかもしれないと考えられた。そこで、この仮設を検証するために、麹菌において CRISPR/Cas9 を用いて、TALENs 使用時と同様なコンストラクトでゲノム編集も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関変更のため、麹菌野生株 (RIB40) を宿主に c-NHEJ 修復経路の構成因子遺伝子群の破壊株造成部分の実験を中断することになり、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
新規所属機関における実験基盤のセットアップに使用する。加えて、前年度中断した破壊株造成の遂行と、本年度予定している、破壊株群を宿主としたゲノム編集による DNA 修復機構の解析費に使用する。
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