研究課題/領域番号 |
16K07707
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
増田 裕一 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (90617755)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機化学 / 環状ペプチド / カイコ / 立体配座 / NMR / アミノ酸 / 安定同位体標識 |
研究実績の概要 |
環状ペプチドPF1171類は、カイコに対して経口投与で麻痺を引き起こす。環状ペプチドの立体配座は活性発現に深く関わっていることから、生体環境中ならびに標的分子結合時の立体配座の解明は、高活性類縁体の合理的設計につながる。本研究では、PF1171類を安定同位体標識して生体環境中での立体配座をNMRにより解析するとともに、アフィニティー精製や光親和性標識法を用いてPF1171類の標的分子を同定することにより、PF1171類がどのような立体配座をとることによりカイコ体内を巡り、標的分子と結合するかを解明することを目的としている。 H28年度は、生体環境中での立体配座をNMRにより解析することを目的として、PF1171Fのアミド窒素の15N標識を行った。15N標識されたL-Pheおよびアントラニル酸は購入し、購入が困難な15N標識D-AlaおよびD-allo-Ileは有機合成した。具体的には、脱離基であるトシル基を導入したαヒドロキシ酸に対して、15N標識したベンジルアミンを求核置換反応させることにより15Nを導入した後、保護基の変換を経て目的とする保護アミノ酸へと導いた。4種類の15N標識アミノ酸を、既に確立しているPF1171類の合成法に適用することにより、15N標識したPF1171Fの合成を達成した。800 MHzのNMR装置を用い、1H-15Nの二次元相関スペクトルを高感度で測定できるSO-FAST法を用いたところ、リン酸緩衝液中における1H-15Nクロスピークを観測することができた。これらの化学シフトは重クロロホルム中とは異なったことから、PF1171Fが有機溶媒と水系溶媒中で全く異なる立体配座を形成していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の大きな課題であった15N標識PF1171Fの合成が完了し、1H-15Nの二次元NMRクロスピークの観測にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に合成した15N標識PF1171Fを用いて、カイコ血液中における1H-15N二次元NMRを測定、化学シフトを帰属する。 一方で、標的分子探索を目的としたPF1171Fの標的探索に着手する。本研究者はこれまで、MeLeu残基の側鎖にアジド基を導入したPF1171Fがカイコ麻痺活性を維持していることを報告している。さらに、末端にアルキンを有するビオチンフラグメントをクリックケミストリーにより連結することにも成功した。H29年度は、合成したPF1171F-ビオチンプローブをアビジンアガロース樹脂に固定化したアフィニティー樹脂を作製し、標的タンパク質の精製を行う。タンパク質溶液は、カイコの培養細胞もしくカイコの表皮を除いた部分の細胞破砕液を用いる。アフィニティー精製の後、得られたPF1171F結合タンパク質をSDS-PAGEにより分離する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入する予定であった計算化学ソフト(AMBER)を、次年度に購入することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度に行う分子力学計算のための計算化学ソフト(AMBER,20 万円)を購入する予定である。余った予算は、H29年度に行う分子プローブの合成のための試薬・溶媒の購入費に充てる。
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