研究課題/領域番号 |
16K07710
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
臼井 健郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60281648)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生理活性物質 / γ-tubulin / がん分子標的 |
研究実績の概要 |
細胞内での効率的微小管重合には、主に中心体に存在するγ-tubulin複合体が必要であるが、重合促進以外のγ-tubulinの機能については不明な点が多い。また、γ-tubulinはがん化学療法の新たな分子標的として注目されているものの、これまでγ-tubulin特異的阻害剤の報告は我々が報告したgatastatinのみであり、がん分子標的としての妥当性は依然として不明のままである。そこで本研究では我々が世界に先駆け見出したγ-tubulin特異的阻害剤gatastatinを用いてがん分子標的としての妥当性を明らかにするとともに、γ-tubulinの細胞内機能の解明を行っている。 今年度はγ-tubulin特異的阻害剤と併用した場合に細胞毒性を相乗的に上昇させる薬剤の探索を行い、3つの活性物質を得ることに成功した。現在、併用時の細胞毒性発現機構について検討を行っている。また、Plk1阻害剤による併用効果の作用機構解析を進め、併用時に引き起こされる細胞死について明らかにするとともに(現在論文作成中)、耐性因子として見出された機能的p53との解析を進めている。さらにKinesin-5阻害剤との併用による微小管ダイナミクスへの影響検討を開始し、観察条件の検討をおこなった。 また、以上と並行してGatastatin類縁体を用いた構造活性相関検討を進めている。これまでに、よりγ-tubulin阻害活性の高い化合物は得られていないものの、微小管重合阻害活性が強い化合物を見出すことに成功し、論文及び学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
γ-tubulin特異的阻害剤gatastatinと併用した場合に細胞毒性を相乗的に上昇させる薬剤の探索を、既存の細胞周期因子に対する阻害剤ライブラリーを用いて行った。その結果、細胞周期進行に関わるキナーゼを標的とすることが報告されている3つの活性物質が得られた。これらの化合物のうち、一つに高い相乗効果が見られたため、現在その一つのキナーゼ阻害剤に着目して作用機構について検討を行っている。また以前からPlk1阻害剤による併用効果が見られていたため、その作用機構解析を進めた。その結果、Plk1阻害剤とgatastatinの併用時に単極紡錘体が形成され、その結果、抗アポトーシスタンパク質であるMCL-1減少を伴ったアポトーシスが誘導されることを明らかにした(論文作成中)。現在このMCL-1減少を伴うアポトーシスと機能的p53との関係に着目し、検討を進めている。Kinesin-5阻害剤との併用による微小管ダイナミクスへの影響検討については、Kinesin-5阻害剤であるS-trityl-L-cysteineと併用することによって検討を開始し、観察条件がほぼ固まりつつある状況になっている。 以上と並行してGatastatin類縁体を用いた構造活性相関を行っており、既存の類縁体よりも強い微小管重合阻害活性を示す類縁体O6-demethylbenzyl glaziovianin Aを見出すことに成功し、論文及び学会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度でのスクリーニングによって得られた、γ-tubulin特異的阻害剤gatastatinと併用した場合に細胞毒性を相乗的に上昇させる薬剤と同じ標的を持つ薬剤が、同様の併用効果を示すか検討する。併用効果が見られた場合、gatastatin耐性細胞の標的分子の遺伝子をRNA干渉などでの発現阻害や、感受性細胞で過剰発現を行い、感受性の変化を調べることで、感受性規定因子の絞り込みを行い、γ-tubulinががん分子標的として妥当であるか検討する。また、Kinesin-5阻害剤との併用による微小管ダイナミクスへの影響ついて検討を進め、γ-tubulinが関わる微小管重合促進以外の生命機能の一端を明らかにする。さらに中心体が細胞休止期に基底小体として形成される一次繊毛の形成や機能にもγ-tubulinが深く関わっていると考えられることから、微小管ダイナミクスへの影響とともに、その構造形成における重要性や、一次繊毛が感知すると考えられる細胞外シグナルへのセンサー機能について検討を行う。 さらに以上と独立・並行してGatastatin類縁体を用いた構造活性相関を行い、より特異性や活性の高いγ-tubulin特異的阻害剤の開発を進めていく。
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