研究課題/領域番号 |
16K07711
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西田 芳弘 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (80183896)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイコプラズマ / 細胞膜 / 糖脂質 / 自己集合化 / 脂質二重膜 / 糖鎖 / 立体化学 / 核磁気共鳴スペクトル |
研究実績の概要 |
マイコプラズマ肺炎菌の細胞膜には、リン脂質とコレステロールに加えて、2種のグリセロ糖脂質(DGGL)が存在する。DGGLは肺炎マイコプラズマ菌が生産する新規糖脂質で、飽和脂肪酸(C16, C18)と(1-6)結合した二糖をもつことを特徴とする。先に、筆者らは、菌体から抽出したDGGLの化学構造を明らかとし、合成DGGLを利用した感染診断法を開発した。現在、実用化を進めている。本申請研究は、本DGGLが、細胞膜成分として、どのような立体構造と動的挙動を示すのか、詳細に解析する。立体構造をもとに、肺炎マイコプラズマ菌にとって、これら細胞膜糖脂質がどのような役割を果たしているのか検証する。2017年度は、細胞膜脂質(リン脂質と糖脂質)が、溶液中で、どのような動的分子挙動を示すのかを核磁気共鳴スペクトルと分子力場計算法を用いて解析した。その結果、以下のことが明らかとなった。 (1)脂質二重膜形成に直接関与する1,2-ジアシルグリセロール部位(脂質部位)の動的平衡は、sn-3位の置換基によって大きく変化する。 (2)sn-3位に水酸基を持つ DAGの場合、脂質部位の動的挙動は溶媒効果により,大きく左右される。 (3)sn-3位がリン酸化されると、脂質部位は、溶媒に関係なく、一つのゴーシュ配座を優先的にとるようになるなど、動的挙動に顕著な変化をもたらす。 (4)sn-3位がスルホニル化(メシル化、トシル化)されると、脂質部位の回転配座は、溶媒に関係なく、ほぼ無秩序な配座挙動に移行する。 (5)sn-3位が糖化(ベータガラクトシル化)されると、脂質部位の回転配座は、2つのゴーシュ配座の平衡状態に移行する。その傾向は、特に、極性溶媒中で顕著となり、糖脂質の動的挙動は、リン脂質とDAG-C16の挙動と大きく異なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね、研究は順調に進展している。当初の計画では、平成28年度に糖種が異なるDGGL異性体、平成29年度に糖を様々な置換基に代えたグリセロ脂質を化学合成する予定であったが、これを同時に進行することにした。後者の化学合成は平成28年度で、ほぼ完了してNMR解析を進めることができた。前者の糖脂質誘導体は、モノα-ガラクト型糖脂質の化学合成を行ない、NMR解析を行った。2糖結合をもつα-ガラクト型脂質の化学合成を現在進めているが、二糖構築が思うように進んでいない。平成29年度は、グリコシル化法を種々検討して、目的とする各種DGGL異性体の化学合成を完了する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で、細胞膜脂質の動的配座の挙動は、同一のグリセロ脂質構造を持っていても、頭位(sn-3位)の化学構造によって変化すると判明した。すなわち、頭位が異なるリン脂質と糖脂質は、脂質部位の動的挙動が互いに異なる。そのため、混合状態で、いずれも脂質二重膜を形成できるが、形成後は相分離を起こしてしまうことを意味している。マイコプラズマDGGLの場合も同様で、リン脂質を主要脂質とする細胞膜内では、マイクロドメイン(ラフト)を形成すると考えられる。マイクロドメインの証明が、研究の展開にとって鍵となろう。糖脂質含有リポソームの免疫染色などにより、マイクロドメインの形成を証明したい。 また、マイコプラズマ細胞膜糖脂質(DGGL)は、一見ありふれた構造を持つグリセロ糖脂質である。しかし、β1,6結合した二糖部位は、糖C5-C6炭素軸の回転によって動的平衡状態にあり、溶媒やイオンの影響を受けて、三次元構造が大きく変化する。筆者は、1985-1995年にかけて「立体選択的重水素化反応とNMRスペクトルスコピーを用いた1,6-結合糖鎖の三次元構造解析」に取り組み、糖鎖の動的平衡挙動を明らかにしてきた。筆者が明らかにした経験則に従うと、マイコプラズマ細胞膜糖脂質DGGLの二糖部位の安定配座は溶媒によって2通りに変化する。水溶液中では、二糖残基がグリセロール側に折りたたまれた配座を優位にとり、グリコシド結合周辺にクラウンエーテル様の陽イオン配位子を形成すると予想している。分子モデルを用いた計算から、ナトリウムやアンモニウムイオンを取り込む大きさである。一方、非プロトン系溶媒中では、同部位の安定配座は変化して、配位子としての機能は消失、取り込まれたイオンは放出される。2018年度は、予想されるイオノフォアと機能を詳細な配座解析とイオン滴定実験などを行って明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた実験が計画の一部変更で次年度に行うことにした。この実験に必要な試薬類(合成酵素、溶媒など 計130,000円)の予算を年度末まで確保していたが、実験計画を立て直した後、次年度に購入することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(B-A)に相当する 33,389円分は、昨年度予定して実験(二糖誘導体の化学合成)に必要な酵素、反応試薬、精製用溶媒の購入に使用する。
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