研究実績の概要 |
γ-プロテオバクテリアに属するThiothrix属のマイクロチューブの主要成分であるグルコース・グルコサミンβ-1,4共重合体(グルコサミノグルカン)の溶液中における立体構造を分子動力学計算で予測した。複数分子系での計算を行ったところ、アミノ基に起因する静電的反発力があるにもかかわらず会合して溶解することが示唆された。また、会合をもたらす水素結合はセルロースに類似していたことから、グルコサミノグルカンはセルロースに強固に吸着すると予想された。そして実験により吸着を確認し、グルコサミノグルカンによるセルロース素材のアミノ化が可能なことを示した。 マイクロチューブのもう一つの成分である未同定デオキシ糖の構造決定を目指し、デオキシ糖の精製手順を確立した。さらに、エタノール、メタノールなどが良溶媒であり、ヘキサン、ジエチルエーテルなどが貧溶媒であることを見出し、これらの溶媒を組み合わせた系での結晶化を試みた。しかしながら、いずれの系でもデオキシ糖はシロップ状になるのみで結晶化は起こらなかった。還元アミノ化物としての結晶化も試みたが結晶は生じなかった。 電子顕微鏡による菌体の観察でマイクロチューブ表面にS-レイヤーを発見した。そして、S-レイヤータンパク質の精製と遺伝子の特定に至り新規性を確かめた。これは、S-レイヤーの知られざる役割の一つとしてマイクロチューブの補強があることを示す結果である。 多糖のみからなるThiothrix属のマイクロチューブと対比すべく、システインを含む複合糖質からなるLeptothrix属(β-プロテオバクテリア)のマイクロチューブにおけるシステイン残基の機能を検討し、それが金イオンの還元(ナノパーティクル化)をもたらすことを見出した。Thiothrix属のマイクロチューブにはこのような作用はなく、両マイクロチューブの機能面での違いが明らかとなった。
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