研究実績の概要 |
発光キノコの発光メカニズム解明を目指し、当初の予定どおりルシフェリン酸化物の特定を試みた。2015年に、ロシアとの共同研究により発光キノコのルシフェリン前駆物質がヒスピジンであることを特定している(Purtov et al., 2015)ので、本年度は、市販のヒスピジンとヤコウタケ(Mycena chlorophos)の粗抽出物(ルシフェラーゼ画分)を混合し、補因子であるNADPHを加えて反応を行った。その結果、反応時間とともに未知化合物の蓄積が見られ、さらにこの未知化合物が徐々に減少していくとともにクマル酸の蓄積が認められた。これは、この未知化合物がルシフェリン酸化物であり、これが分解することでクマル酸が生じたことを示唆する結果である。 そこで次に、この未知化合物をHPLCを用いて分離し、マススペクトルにより分子量を推定した。以前から共同研究を行っているロシア科学アカデミーでもNMRを使ったこの未知化合物の特定を進め、概ね構造がわかってきた。さらに、ブラジル・サンパウロ大学と共同研究により、安定同位体標識酸素を用いたルシフェリンの酸化プロセスの解明を進めた。その結果、発光キノコのルシフェリン酸化プロセスが、これまでに知られている生物発光とは異なる中間体を経ている可能性が示唆された。 以上の成果は、これまで謎であった発光キノコの発光メカニズム解明の重要な手掛かりなるものであり、来年度中にはルシフェリン酸化物の構造決定および酸化プロセスの解明できる可能性が強くなってきた。
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