研究課題/領域番号 |
16K07718
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
石原 亨 鳥取大学, 農学部, 教授 (80281103)
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研究分担者 |
寺石 政義 京都大学, 農学研究科, 講師 (80378819)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ファイトアレキシン / イネ / ナチュラルバリエーション / サクラネチン / モミラクトン |
研究実績の概要 |
植物は病原菌の感染に応答して、ファイトアレキシンを蓄積する。イネでは、フラボノイドのサクラネチン、テルペノイドのモミラクトン類、オリザレキシン類、ファイトカサン類など15種類以上のファイトアレキシンが報告されている。今年度は、テルペノイド型ファイトアレキシンのモミラクトンおよびオリザレキシンの蓄積について種内多様性を調べた。
モミラクトンA、B、およびオリザレキシンAを、紫外線を照射したイネの葉から単離した。得られた化合物を標準化合物とし、LC-MS/MSを用いたマルチプルリアクションモニタリングによる一斉分析法を確立した。植物材料には、農業生物資源ジーンバンクから分譲された世界のイネ・コアコレクション68品種を用いた。それぞれの品種を播種から約18日間生育させた後、第三葉に紫外線を5分間照射して、72時間インキュベートした。これを80%メタノールで抽出し、ファイトアレキシンを定量した。イネのファイトアレキシンの中には、外部からの刺激の有無に関わらず籾殻に蓄積するものもある。そこで、同様の方法で籾殻も抽出し分析を行った。
分析の結果、ファイトアレキシンの蓄積量は品種によって大きく異なっていた。モミラクトン類を蓄積する品種はジャポニカ種に多く、インディカ種には少なかった。オリザレキシンAは、さらに少数の品種のみが蓄積することがわかった。また、紫外線照射した葉にモミラクトン類を高濃度に蓄積した品種は、籾殻にも比較的高濃度のモミラクトン類を蓄積していた。以上の結果から、イネには、テルペノイド型ファイトアレキシンに関して複数のケモタイプがあり、大きな種内多様性を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、イネの様々な品種のにおけるファイトアレキシン蓄積の多様性を証明することができた。これまで、構成的に蓄積する二次代謝の多様性については報告があるが、誘導生の二次代謝産物についての報告は初めてである。
一方で、近年注目を集めているイネの新たな二次代謝産物フェニルアミド類について、25種のフェニルアミドの標品を調製し、LC-MS/MSを用いた網羅的解析法を開発することができた。得られた成果を学会で発表するとともに、論文で公表することができた。
以上のことから、本課題については順調に研究が進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はファイトアレキシンの種内多様性について、次のような方法でそのメカニズムの解明を行う計画である。
まず、フラボノイド系ファイトアレキシン、サクラネチンの蓄積量は日本晴とカサラースで大きく異なるが、染色体断片置換系統と組替え自殖系統を活用した解析から、その原因はサクラネチン生合成酵素である、ナリンゲニン7-O-メチルトランスフェラーゼ(NOMT)にあることがわかってきた。実際にカサラース由来の酵素をクローニングして大腸菌で発現させたところ、ほとんど活性がなかった。そこで、今年度は、酵素遺伝子のどの変異が原因で活性が失われるのかを明らかにする。日本晴とカサラースの両方の品種からNOMTをクローニングし、キメラ酵素を作成することにより、原因となるアミノ酸変異を特定する計画である。一方で、コアコレクションでみられた多様性の解明には染色体断片置換系統と組替え自殖系統を活用して原因遺伝子の特定を目指す。現在、解析はほぼ終了しており、速やかに多様性に関連する染色体上の領域が特定できると考えている。くわえて、これらの系統ではファイトアレキシンのエリシターとして使用する紫外線に対する感受性や紫外線照射によって生じるオキシリピン類の組成や量に違いがある可能性がある。これらについても検証を行う計画である。
以上の研究によって、イネにおけるファイトアレキシンの蓄積に関する多様性の全貌が明らかになるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度実施中の日本晴とカサラースから作成された染色体断片置換系統と組替え自殖系統の解析について、植物の栽培と紫外線処理、溶媒抽出はすでに終了しているが、LC-MS/MSによるファイトアレキシンの定量を次年度行う。このための費用を次年度に持ち越した。
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