研究課題/領域番号 |
16K07720
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
野下 俊朗 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (50285574)
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研究分担者 |
田井 章博 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (70284081)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Ullumannエーテル合成 / PTP1B阻害活性物質 / 構造活性相関 |
研究実績の概要 |
Liらによって単離・構造決定の報告がなされているエゾウコギ由来PTP1B阻害活性物質3-[3’-methoxy-4’-(4”-formyl-2”,6”-dimethoxyphenoxy)-phenyl]propenalについては一昨年度、その全合成を達成した。その結果、合成で得られた化合物のスペクトルデータと報告されている化合物のデータが一致しなかったことからLiらの提出構造に誤りがあることが強く示唆された。そのため真のPTP1B阻害物質の構造をその異性体、3-[4’-methoxy-3’-(4”-formyl-2”,6”-dimethoxyphenoxy)-phenyl]propenalと推定し、平成29年度はその全合成を試みた。ジアリールエーテルの構築は種々検討の結果、Shioeらの方法(古典的ウルマンエーテル合成の条件)によってのみ成功し、本法により目的としたLiらの提出構造の異性体の合成を完了した。しかし、得られた化合物のスペクトルデータと報告されている化合物のデータは一致しなかった。そこで合理的な範囲で推定しうる異性体を合成したが、これらのいずれも天然物として報告されているデータと一致しなかった。一方、合成した化合物をPTP1B阻害活性試験に供しその活性を検討したところ、報告されている濃度域では阻害活性を全く示さないことも明らかとなった。以上のことからLiらによって単離されたエゾウコギ由来PTP1B阻害活性物質の構造決定は誤りであり、本提出構造を先導化合物としたジアリールエーテル型PTP1B阻害剤の作出は困難となった。 一方、29年度に合成したジアリールエーテル型化合物はさらに増加したため、本研究のもう一つの目的でもある新規な神経細胞伸長物質の検索のための化合物ライブラリーはより充実したものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度には達成できていなかったLiらの提出構造の異性体である3-[4’-methoxy-3’-(4”-formyl-2”,6”-dimethoxyphenoxy)-phenyl]propenalおよび数種の異性体の合成に成功したことから、平成29年度の研究は一定の進展を見たと考えている。しかし、合成して得られた化合物はいずれもLiらによって報告されている化合物のスペクトルデータと一致せず、報告されている顕著なPTP1B阻害活性も示さないことが明らかとなった。以上のことからLiらの提出構造がそもそも誤りであり、本構造を先導化合物としたジアリールエーテル型PTP1B阻害剤の作出、すなわち当初予定していた研究の第一目標の達成が著しく困難になったことを示している。一方、前述の異性体合成を通じて29年度までに合成したジアリールエーテル型化合物はさらに増加した。このことは本研究のもう一つの目的である新規な神経細胞伸長物質の検索のための化合物ライブラリーの充実につながったといえる。 これまで、ジアリールエーテル型PTP1B阻害剤の作出を第一目標として研究を実施してきたが、上述のようにその前提となる報告が誤りであった。今後はこれまで得られた化合物ライブラリーを利用した新規な神経細胞伸長物質の検索に研究の方向性を変化させる必要が生じた。以上のことを総合した結果、本研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成したジアリールエーテル型化合物を用いて生理活性試験を実施する。平成30年度は神経突起伸長促進作用を検討する。活性試験の結果、構造と活性との相関がある程度予測可能であればより高い活性が期待される化合物をデザインし、より活性の高い誘導体を作出する。なお、神経突起伸長促進作用に関してはジアリールエーテル型化合物が作用する場の検討はこれまでになされていない。そこで神経突起伸長促進作用を有するジアリールエーテル型化合物が見出された場合、その化合物末端のアルデヒド基あるいはベンゼン環部を改変し蛍光性置換基(ダンシル基など)を導入した類縁体、あるいはクリックケミストリーを応用可能な置換基(アセチレン、アジド基など)を導入した類縁化合物も合成しその活性を検討する。この誘導体が神経突起伸長促進作用を有している場合、この化合物を用いて神経突起伸長に関与する細胞内/細胞表面の部位あるいは受容体・タンパクを見出すとともにその作用機序の解明を図る。 なお、新規なジアリールエーテル型化合物を合成する都度PTP1B阻害活性試験に関しても実施し、その阻害剤としての可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
生じた理由 合成した化合物は想定していた活性を有しておらず、生理活性試験の回数が当初予定よりも少なかったため消耗品費の使用額が当初予定より少額となった。また、研究代表者のみが学会に参加したため、当初予定より旅費の使用額が少額となった。
使用計画 これまで実施してきたPTP1B阻害活性試験に加え、30年度は新たに神経突起伸長に関与する活性試験を実施する。このため消耗品費は予定通り使用する。研究成果をまとめ投稿するため英文校閲費は予定通り使用する。また論文が受理された場合、オープンアクセスでの公表を予定しており論文投稿費も予定通り死闘する。
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