研究課題/領域番号 |
16K07721
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
赤坂 和昭 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (10201881)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 低温分離 / 逆相クロマトグラフィー / 高速液体クロマトグラフィー / 不斉識別 / トコフェロール |
研究実績の概要 |
HPLC分離においてカラム効率の著しい低下が生じる低温下での分離は、その欠点のためほとんど実例がない。本研究では、低温分離条件の欠点を克服し、新たに発現する分離特性を活用する事を目的に、低温条件下における化合物の保持・分離特性について明らかとし、低温分離の活用と欠点の克服のための基礎的データの集積を行った。 先ず、カラム冷却システムについて、市販のプラスチック容器を利用し、冷却用プローブ、可変式の機械式攪拌装置等を装着した装置の試作・改良を行い、安定的な低温環境の保持とカラム交換の簡便性を両立したシステムを構築した。 分離特性については、13-メチルペンタデカン酸の不斉誘導体を試料として、保持・分離特性、カラム効率、移動相溶媒、逆相カラムの種類の影響について検討した。不斉分離では、カラム温度の低下に伴い分離係数αが向上し、-30℃以下でピーク分離が可能となった。一方、温度低下に伴いカラム効率も低下したが、流速低下で若干の改善が可能であった。THFの混合溶媒系でのメタノールとアセトニトリルの比較では、後者がカラム効率で、前者が分離係数でそれぞれ若干優る傾向が認められ、使い分けが有効と考えられた。へプタンには分離係数、カラム効率を大きく変えることなく溶出力を上げる効果が認められ、低温トラップ後の捕集画分の溶出に有効と考えられた。固定相の結合様式についてはモノメリックの方が、またC18とC30カラムの比較では、後者が分離係数において若干優れていた。また、固定相粒子径によるカラム効率への影響が特に大きく、低温条件での小粒子径の充填剤の有効性が強く認められ、更に検討を加える予定である。 また、4種のトコフェロール同族体の分離について検討した結果、低温下では構造識別能が著しく向上し、室温では困難であった4種の同族体分離を10分以内に行うことができ、低温分離用有効性が実証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究遂行において重要となるカラム冷却システムを構築することができた。特に、冷却槽の蓋を開閉式とすることでカラムの脱着の簡便性を確保しつつ、機械式撹拌機の導入を実現し、冷媒の攪拌効率を格段に向上することができ、様々なカラムを用いた、再現性あるデータの取得が容易となった。本システムは、オンライントラップ法やLC-LC法への展開も可能な構造とした。 13-メチル分岐脂肪酸誘導体について、初年度の検討項目に挙げていた、分離条件(溶媒の種類・組成、分離温度、流速等)、および分離カラム(固定相アルキル鎖長、固定相の結合様式、コアシェル型vs多孔性型、固定相粒子径、カラム内径等)のカラム効率、分離特性に関する基本的データの集積を達成した。その中で、低温分離の欠点を克服するためのカギとなるコアシェル型カラムについては、今回試したカラムでは十分な分離効果を得ることができなかった。これについてはメーカーにより特性が異なることから、他社のカラムについても検討する予定である。もう一つの欠点克服のためのカギとしていた固定相の粒子径については、カラム効率改善に対する効果が期待以上に高かったことから、更に微細な粒子径のカラムについて検討を進める予定で、低温分離の欠点克服の有力な足掛かりを得ることができた。 本研究は10月からの開始となったことから、検出器をはじめとした分析システムの構築が遅れ、当初予定していたアミノ酸誘導体等の分離特性についての検討までには至らなかったが、分岐脂肪酸およびトコフェロール類に対するデータは十分に蓄積でき、今後予定しているこれらの同族体に対するオンライントラップ法、およびLC-LC分析法の構築に向けたソフト面での準備ができた。また、バルブスイッチングデバイスやLC-LC法で接続する第二LCシステムの設置も前倒しで完了し、ハード面における準備も順調に整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策として、①水溶性化合物への展開の可能性について検討を加える。前年度に十分検討できなかったアミノ酸誘導体等を用いた検討により、移動相に水を含む系の展望と限界を明らかとする。さらに、②前年度に蓄積したデータをもとに、室温分離した目的成分を、バルブスイッチングデバイスを用いてオンライで低温冷却カラムに導き、そのカラムヘッドにトラップ・濃縮するオンライン濃縮法について検討する。肪酸誘導体をモデル化合物として、目的成分のトラップ効率、回収率、精製度などに与える、カラムサイズ、試料導入量および回数、移動相組成、カラム温度、固定相の種類、回収方法(溶出溶媒、温度上昇)等の影響を明らかとし、オンライトラップ・濃縮の基本システムを構築・確立する。更に、複数回室温カラムで分離した目的成分を含む画分を、低温カラムで濃縮した後、溶媒組成を変えて再精製を行う分取LC-LC法について検討し、食品中に含まれるトコフェロール類をモデル化合物とし、基本システムを構築し、実際の食品からの分離・精製に応用し実用性を評価する。さらに、③目的成分の精密分離を目指すLC-LCシステムを構築する。オンライントラップ法と同様に試料を常温カラムで分離した目的成分を含む画分のみをスイッチングデバイスを通し低温カラムに導き、常温カラムと低温カラムによる分離特性の違いを利用し精密分離を実現する。キラルカラムとの接続では使用可能な溶媒が制限されるため、低温トラップカラムの昇温による溶出法について検討し、ヤギ乳のチーズ中に含まれる不斉メチルおよび不斉エチル分岐脂肪酸のキラルカラムを用いたオンライントラップ-LC-LCキラル分析システムによる立体異性体の組成分析法を確立する。尚、低温トラップカラムについては、小サイズのカラムの使用や圧力がかからないモノリス型カラムの利用についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究採択の通知後の10月から研究に本格着手し、実験の環境の整備とデータ集積に傾注したため機器備品および消耗品等の物品費、および機器導入にかかわるその他の経費の支出となり、旅費、人件費を支出するまでには至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
効率的な実験・研究の遂行により研究着手の遅れを取り戻す。このため、まだ検討の余地が残っている、微細粒子径カラムやコアシェル型カラムを中心に、移動相溶媒系、HPLC部品類の購入費用に繰り越し分の多くを加えて充てる。更に前年度の成果を含めた成果報告、情報収集のため国内学会へ参加(2回)を予定し、その分にも繰り越し額の一部を加えて充てる。更に、研究成果の論文としての公表を目指し、その英文校正に対する謝金も見込む。
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