研究課題/領域番号 |
16K07721
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
赤坂 和昭 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (10201881)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 低温分離 / 逆相HPLC / ビタミンE / トコフェロール / トコトリエノール / 一斉分析 |
研究実績の概要 |
これまで利用されてこなかったHPLC分離における低温条件の活用による新たな分離・分析手法の確立を目的として、8 種の同族体からなるビタミン E(α-,β- ,γ‐,δ-トコトリエノールおよびトコフェロール) の 逆相HPLC による一斉分析について検討した。数種の逆相系カラム(ODS および C30)について、室温~-50℃の範囲で各成分の分離について検討した結果、C30 カラムにより 0℃以下で8種の同族体のほぼ完全な分離を達成することができた。一方、低温条件でのカラム効率の低下については、流速を下げることにより改善することができ、最終的に、カラムとして Develosil C30-UG-3(4.6 x 150 mm)、移動相としてメタノール(100%) を用い、流速 0.9 ml/min, -4℃で溶出し、蛍光検出(Ex. 297 nm、Em. 325nm)することにより8種の同族体を 20 分以内で分離分析することができた。検量線は化合物により異なったが、 sub ng ~10 ng 程度の範囲で良好な直線となり、S/N = 3 における検出限界は、0.011~0.055 ng であった。米ぬか抽出物への添加回収率は80%定地であった。 従来法では、順相系でヘキサン/2-プロパノール、或いはヘキサン/ジオキサン/2-プロパノール系の溶媒を用いて分析が行われてきた。これは、一般的な ODS カラムなどの逆相系では、β‐/γ‐トコフェロールおよびβ‐/γ‐トコトリエノールの分離が特に困難なためであった。今回、低温条件の活用により、よりランニングコストの安いメタノールの単一溶媒系で、氷水による冷却でもビタミン E の8種の異性体の同時分析法が実現したことの意義は大きい。さらに、低温オンライントラップ法によるビタミンE同族体の分取にも一定の目途をつけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の交付決定が10月であったため、研究着手が約半年遅れたが、当初から29年度までの計画の「低温分離の展望と限界を明らかにする」については、分岐脂肪酸、分岐アルコール類誘導体における、各種カラムの効果や分離温度とカラム効率の影響を明らかとすることができた。この結果を踏まえ、ビタミンE同族体の逆相HPLCによる体分離・分析への展開により低温分離の有効性を実証することができた。 「オンカラムトラップ・濃縮法」については、トコトリエノールの精密分析のための2次元HPLCシステム構築に着手しており、低温時の保持挙動など基本的な情報の集積は終えている。さらに、オンカラムトラップ・濃縮法に必要な装置の配置や動作確認も終えている。今後は、精密分析のための最適化、並びに実試料への展開による実用性評価を行う段階となっている。また、セミ分取カラムや濃縮カラムについても並行して準備が進んでいる。2次元HPLCシステム構築において、若干ハード面での問題に直面しているが、すでに解決のめどが立っている。 一方、分岐アルキル不斉を有する昆虫フェロモンの絶対構造解析および立体異性体組成分析のための分離条件の検討はすでに終えている。天然物試料の場合、夾雑成分の影響も懸念されるため、その影響を取り除くため、2次元HPLCシステムの構築も念頭に、基礎データの集積も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのビタミンE同族体の一斉分析法の開発研究において、特に分布が少なく分析例が少なかったトコトリエノールの溶出した付近には、蛍光検出においてビタミンE由来と考えられるピークが複数確認されていた。このため、トコトリエノール類の精密分析のための2次元HPLCシステムの確立について検討する。夾雑ピークの影響を取り除くため、先ず比較的高温条件でODSカラムによる粗分画し、そのままオンラインでC30カラムに導入し、低温・精密分離を行う。それぞれの分離の条件を最適化し、システムの評価を行う。ODSカラムとC30カラムを1時的に直列につなぐため、カラム圧が非常に高くなることから、ODSカラムにはカラム圧の低いモノリス型カラムの利用を検討する。 さらに、この2次元HPLCシステムをオンライントラップ・濃縮システムの基本的性能の評価に活用し、高価なトコトリエノール類、特にβ-トコトリエノールの分離・分取法の確立を目指す。さらに、米ぬか抽出物には見られず、抽出・精製したこめ油中に見られた、ビタミンE由来と考えられる物質の分取法にも活用し、その構造解析や生成過程の解明につなげる。 2次元HPLC法のもう一つの活用として、遠隔位不正識別法による分岐不斉を有する昆虫性フェロモンの絶対構造の決定並びに立体異性体組成分析への応用を検討する。室温と低温の異なる温度で分離を行い、粗分画中の共存成分の影響を除去し、高感度・高精度での精密分析を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付決定が平成28年度10月であったため研究着手が遅れ、前年度(29年度)に352,979円の繰り越しが生じた。この繰り越しについては、29年度の研究が順調に進み研究着手の遅れを挽回することができたが、尚30年度には29年度に繰り越した額の約半額に相当する176,799円が繰り越しとなった。 平成30年度は、当該年度分の助成金と繰越金を合わせ、2次元HPLCシステムの構築に必要な部品類やトラップ用カラムのほか、高価な分取用カラムの購入などの費用、および研究成果発表の経費などに使用する計画である。
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