イネは、病原菌接種や塩化銅(II)処理により、二次シグナル物質としサイトカイニン(CK)やジャスモン酸(JA) を生産し、ファイトアレキシンと総称される抗菌性二次代謝産物の生産を含む様々な抵抗性反応を示す。しかしながら、CKやJAの機能の詳細は明らかでなかった。そこで、本研究では、イネの病害抵抗性におけるCKとJAの機能解明を目的として、CK欠損、及びCK・JA二重欠損変異体の作製を試みた。まず、病原菌感染特異的に誘導されるCK生合成の鍵酵素遺伝子としてIPT3を同定した。次に、ゲノム編集によりipt3変異体(CPM2/CPM2-ipt3/ipt3)とcpm2/ipt3二重変異体(cpm2/cpm2-ipt3/ipt3)を作製したところ、両変異体において、いもち病菌接種により誘導されるCK集積の顕著な抑制が確認された。こうして、野生型、JA欠損変異体cpm2、CK欠損変異体ipt3、CK・JA二重欠損変異体cpm2/ipt3という4種の遺伝子型イネが得られたので、それらについて、非親和性いもち病菌P91-15B(以下15Bと略記)の接種後の感染状態を病斑観察と感染した15BのDNA定量の二つの方法で比較した。その結果、野生型とcpm2については15BのDNA量は低いレベルであったが、ipt3では微増し、ipt3/cpm2では顕著に増加した。また、ipt3/cpm2では15B接種では通常見られない白い病斑が多数観察され、抵抗性が部分的に崩壊しているものと考えられた。また、これら4種の遺伝子型イネの病害抵抗性とイネの病害抵抗性を負に制御する転写因子であるOsWRKY76の転写レベルに負の相関があることも明らかになった。一方、イネのストレス、CK、JA処理などにより誘導されるファイトアレキシン生産は、暗黒下で顕著に抑制され、その抑制はショ糖の外生投与により回復することが示された。
|