研究課題/領域番号 |
16K07724
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
越野 広雪 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, ユニットリーダー (50321758)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / 立体化学 / 天然有機化合物 / 構造訂正 / テルペノイド / ピロン |
研究実績の概要 |
CAST/CNMRシステムは化学構造から13C NMR化学シフトを立体化学を考慮して予測、あるいは化学シフト値から部分構造を検索し、構造推定を行う機能がある。CAST/CNMRシステムを活用した13C NMRの的確なデータ評価を確立し、応用研究として既知物質を異なる構造の新規化合物として報告している構造解析を効率的に見出し、構造訂正研究を行うことを目的とする。最近構造解析が報告された文献を中心に、約700化合物の化学構造と13C NMRデータをCAST/CNMRのデータベースに登録し、文献記載の構造に関してCAST/CNMRを利用して13C NMR化学シフトを中心にデータの評価を行なった。CAST/CNMRの化学シフト値をクエリーとして検索する機能により、同じ13C NMRデータを与える化合物が、異なる構造であることが見出された場合に、各構造をクエリーとして適切な13C NMR化学シフト値を予測して評価を行うことができる。例えば、flufuranは5員環のフラン骨格の構造(5-hydroxymethyk-furan-3-carboxylic acid)が提唱されていたが、この化合物のNMRデータは6員環のγピロン骨格のkojic acidと一致し構造訂正した。ピロン系の化合物に構造の誤りが多いことが予想されたので、重点的に検討した結果chenopodolan類は全てαピロン骨格の構造に構造訂正することができた。13C NMR化学シフト値は立体化学の影響を顕著に受けるので、立体化学の評価にも有効に利用できる。天然物としては比較的シス型のデカリン骨格を有する化合物が少ないラブダン骨格のジテルペンについて評価を行なった結果、cis-sclareolとvulgarolは提唱されているシス型のデカリンではなく、トランス型で側鎖のある9位のエピマーに構造訂正した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献に報告されている化合物を700件ほどデータベースに登録してCAST/CNMRを利用して評価する過程で、構造決定に問題があると思われる報告は予想以上に多く見出されてきたが、それらの中には既知物質ではなく、新規な提唱されている構造が、異なる新規な構造に訂正すべきと判断されるものも多い。新規構造の場合にはCAST/CNMRのようにデータベースに依存するシステムでは該当するデータが存在しないことも少なくない。その場合、提唱されている構造の化合物もしくは予想される訂正構造を化学合成してNMRデータの実測値を用いて比較する必要がある。あるいは、量子化学計算による化学シフト値の予測も利用可能であるが、何にしろ時間と労力のいる方法になる。CAST/CNMRのデータベースは今年度の700件を追加して、6300件ほどの化合物のデータが現在登録されているが、広く適用するにはその数はまだ少ないのが実情である。着実に登録件数を増加させながら、CAST/CNMRを有効利用して化学構造とNMRデータの評価を行なっているが、化合物データがまだ充実していない系統の化合物(例えばペプチドやアルカロイド)では現状での応用は難しいことも予想されている。ただし、どのような系統の化合物でも、重点的に数十から100件程度関連化合物を登録することによって、その関連の化合物の評価はできるようになるので、構造訂正するターゲット化合物を絞りながら研究を進めることで研究成果が出ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に最新の化学系の文献などを中心にCAST/CNMRのデータベースに化学構造と13C NMRデータを登録しデータの評価を行うことを継続する。ピロン系の化合物にはまだ構造の間違いが示唆される化合物が複数検討中であり、重点的に取り組む予定で、これまでに明らかにした構造訂正の結果と合わせて論文にまとめる。テルペン類は立体化学を含む構造訂正やハロゲンと酸素官能基に関する構造訂正が多いので、その辺りを積極的に検討していく。フラボノイド類などのポリフェノール系の化合物に関しても置換基の位置や部分構造などの構造に問題があると予想される化合物が見出されてきたので、関連化合物のデータ登録と評価を進める。p-テルフェニル系天然物に関しては全合成による構造訂正を行なってきたが、信頼できるNMRデータの充実とともCAST/CNMRも有効利用していく予定である。また質量分析でESI-MSで2量体のクラスターイオンの観測や脱水等のフラグメントイオンから分子量と分子式を間違ったことが構造を間違う要因にもなっている事例が数多く見出されるので、本研究によって13C NMRの化学シフト値を用いた評価方法が構造決定や構造訂正研究に有効であることを実証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ入力を学生パートタイマーに協力してもらっているが、初年度は9ヶ月であった。また年度内に論文を投稿できなかったので、英文校閲、投稿料が発生しなかったことと、構造訂正に必要なモデル化合物の化学合成研究が十分にできなかったので、試薬等の消耗品費を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
データ入力の学生パートタイマーには4月から1年間協力してもらう計画である。昨年度の研究成果の論文投稿を予定しており、英文校閲、投稿料の分に関しては今年度に使用する計画である。
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