研究課題
癌はゲノムDNAへの変異蓄積に起因する疾患で、異常増殖能と転移能を併せ持つ癌細胞の出現により発症する。DNAの変異した細胞(以下、変異細胞)は何らかの理由で隣接した細胞との協調性が失われ、組織から取り除かれる。除去機構が完全に解明されているわけではないが、遺伝子変異による細胞の「ちょっとした性質の変化」を周囲の細胞が敏感に感知し、除去が進むと考えられている。本研究は、癌予防食品の分野に「放置したままにしておくと癌細胞へと分化する恐れのある変異細胞の除去」といった視点を新たに加えることを目指したものであり、その第一歩として、変異細胞の除去を促進する食品成分を明らかにすることを目的とする。本年度は、ショウジョウバエを用いたスクリーニングにより変異細胞除去を促進する食品群を見出し、その様な機能をもつ食品成分特定の手がかりを得た。はじめに、食品群をショウジョウバエに与える条件を決定した。食品素材の凍結乾燥粉末または食品含有成分21種類について、様々な濃度でショウジョウバエ用飼料に加えた食品添加飼料を調製し、半数以上の成虫を死に至らす急性毒性、および胚から成虫までの成長に影響を与える発生毒性を示さない濃度を決定した。次に、摂食条件を決定した食品素材の一部について、変異細胞除去促進効果を調べた。正常細胞(GFP 陰性細胞)と変異細胞(GFP 陽性細胞)の混在する「キメラショウジョウバエ」を、毒性を示さない濃度の食品素材等を添加した飼料で育成し、幼虫から変異細胞除去程度の観察に適した組織である翅原基を摘出し、翅原基内の GFP 陰性細胞の割合を数値化した。その結果、3種類の食品素材で GFP 陰性細胞の増加する、すなわち変異細胞の除去を促進する結果が得られた。年度末には、これら食品素材について分画条件の検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
本年度中に、毒性試験を行った全ての食品素材について変異細胞除去促進効果の解析を終えることはできなかったものの、研究目的の達成に必須である「変異細胞の除去を促進する食品素材」を複数見出すことに成功したからである。本年度の研究が順調に進展していることを意味する。
本年度に見出した食品群の中から、変異細胞除去を促進する成分を特定する。はじめに、見出した食品群に含まれる成分や既知の機能性より、有効成分を予想する。それに基づき、溶媒分画法により予想成分を粗精製し、前年度と同様の手法で変異細胞除去促進効果を評価する。粗精製後の画分に変異細胞除去促進活性が見出されたならば、成分の性質に適合したカラム及び溶媒系を用いた高速液体クロマトグラフィー (HPLC)を行い、さらに分画をすすめる。各画分について先と同様の解析を行い、変異細胞除去促進成分を特定する。次に、特定した変異細胞除去促進成分が、他の癌予防効果も併せ持つかを検証する。当該成分存在下で培養細胞を培養し、放射線照射、あるいは過酸化水素添加などの DNA 損傷刺激を加える。コメットアッセイによる DNA 損傷程度、小核試験による染色体異常、ウエスタンブロッティングによる DNA 修復関連タンパク質(XPA, XPF, XPG, ERCC1など)の発現程度などを調べ、当該成分を加えていない細胞の結果と比較する。有意な差が見られたならば、当該成分は変異細胞除去促進効果だけでなく他の癌予防効果も併せ持つと結論し、変異細胞除去促進成分が併せ持つ癌予防効果を総合的に評価する。
平成29年度以降に本格的な食品素材分画実験を開始することになったため。当初計画では、当該年度に必要な物品を購入し、実験補助員も雇用する予定であったが、次年度に購入、雇用することになった。
次年度使用額1,218,134円と平成29年度予算の1,200,000円を合わせた2,418,134円のうち、約100万円を実験補助員への人件費に充て、残額を物品費や旅費とする。
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