研究課題
癌はゲノムDNAへの変異蓄積に起因する疾患で、異常増殖能と転移能を併せ持つ癌細胞の出現により発症する。DNAの変異した細胞(以下、変異細胞)は何らかの理由で隣接した細胞との協調性が失われ、組織から取り除かれる。除去機構が完全に解明されているわけではないが、遺伝子変異による細胞の「ちょっとした性質の変化」を周囲の細胞が感知し、除去が進むと考えられる。本研究は癌予防食品の分野に「放置したままにしておくと癌細胞へと分化する恐れのある変異細胞の除去」といった視点を新たに加えることを目指したものであり、その第一歩として、変異細胞の除去を促進する食品成分を明らかにすることを目的とする。本年度は、前年度に見出した変異細胞の除去を促進する2種類の食品素材A、Bについて、溶媒分画法により変異細胞除去活性を持つ成分の絞り込みを試みた。癌予防効果に関する報告が多いポリフェノール類の抽出を念頭にA、Bを80%エタノールで分画し、両画分の活性を調べたところ、不溶性画分にのみ活性が見出された。活性はポリフェノール以外の成分が持つ可能性が高まった。Aの活性成分の特定を目指し複数の溶媒による分画を進めたが、活性を持つ画分が見出されなかった。この時に用いたAは未分画でも活性が検出されなかったことから、何らかの理由でAそのものが失活したと結論した。前年度に続き他の食品素材の毒性試験、および変異細胞除去促進効果の検証も行った。その結果、新たな食品素材C、Dを見出した。本研究で最も手間のかかる作業はショウジョウバエ翅原基内の変異細胞の存在割合の数値化である。特に翅原基写真の詳細な解析に多くの時間が割かれる。これを軽減するために、コラゲナーゼ等で多数の翅原基を細胞レベルに分散し、変異細胞の割合を数えるといった新たな手法の確立を試みた。
3: やや遅れている
昨年度に毒性試験を行った全ての食品素材について変異細胞除去促進活性の検証を終え、新たな食品素材CおよびDを見出すことができた。この点については研究課題が順調に進展しているといえる。可溶性の変異細胞除去促進成分を見出すことができず、培養細胞を用いた癌予防効果の性格付けの実験に取りかかれなかった。この点について、研究課題の進捗状況はやや遅れている。一方、多数の翅原基を細胞レベルに分散し、変異細胞の割合を機械的に数えるといった新たな手法確立への試みは、以降の研究課題の進展を加速させることが期待できる。以上をふまえ、「(3)やや遅れている」と判断した。
研究の進捗状況がやや遅れた最大の理由は、食品素材Aの活性低下による活性成分分画の失敗にある。研究推進方策として、平成29年度の収穫期に新鮮な食品素材を入手し直し、迅速に加工し-80度へ保管した。本年度は、入手しなおしたAだけでなく、B、CまたはDの分画も行い、活性成分の絞込みを推し進める。そして、研究の遅れを挽回すべく変異細胞除去活性検証法の改善も推し進める。
理由: 本格的な食品素材分画実験および培養細胞を用いた実験を平成30年に行うことにしたため。使用計画: 次年度使用額2,384,638円と平成30年度予算の1,3000,000円を合わせた3,684,638円のうち、約300万円を実験補助員への人件費および細胞計測装置に充て、残額を物品費や旅費とする。
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