癌はゲノムDNAへの変異蓄積に起因する疾患で、異常増殖能と転移能を併せ持つ癌細胞の出現により発症する。DNAの変異した細胞は何らかの理由で隣接した細胞との協調性が失われ、組織から取り除かれる。除去機構が完全に解明されているわけではないが、遺伝子変異による細胞の「ちょっとした性質の変化」を周囲の細胞が感知し、除去が進むと考えられる。本研究は、癌予防食品の分野に「放置したままにしておくと癌細胞へと分化する恐れのある変異細胞の除去」といった視点を新たに加えることを目指したものであり、その第一歩として、変異細胞の除去を促進する食品成分を明らかにすることを目的とする。前年度までに、変異細胞の除去を促進する4種類の食品A、B、C水抽出物、およびDを見出し、A、Bは共に80%エタノール不溶性成分が活性を持つことを示したので、本年度はCおよびDに関する実験から行った。 Cは水溶性画分に活性成分が含まれていたことから、主な水溶性成分のアスコルビン酸、ポリフェノールCa、Cb、Cc、Cdについて変異細胞除去促進効果の解析を開始したところ、Ca、Cbからのみ活性が検出された。Ca、Cbはポリフェノールを構成するアグリコンの構造が同じであることから、これが活性の本体であることが示唆された。Dは、Dに類似する食品Eについて変異細胞除去促進効果の解析したところ、活性が見出されなかったことから、Dに特徴的な成分が活性を担っていることがわかった。 次に、変異細胞除去促進食品が変異原による動物個体の死を抑えるかを検証したところ、A、Bのいずれからも抑制効果が見られたため、A、Bの癌予防効果が裏付けられた。変異細胞除去促進効果を示さない食品Fからはそのような効果が見られなかった。 以上より、変異細胞除去を促進する食品成分を明らかにするという研究目的は達成された。
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