研究課題/領域番号 |
16K07727
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
長澤 孝志 岩手大学, 農学部, 教授 (80189117)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メチオニン / 骨格筋タンパク質 / C2C12細胞 / タンパク質分解 / タンパク質合成 / オートファジー |
研究実績の概要 |
メチオニン(Met)のin vivoにおける骨格筋タンパク質分解抑制作用を確認するために、3週齢Wistar系雄ラットにMetを強制経口投与(40mg/100gBW)した。経時的な骨格筋タンパク質分解速度を単離筋肉切片からの3-メチルヒスチジン(MeHis)の放出速度から測定したところ、ロイシン等と異なり投与6時間後においても分解の抑制が継続し、オートファジーの活性も同様であった。またユビキチンリガーゼの発現も抑制されていた。一方、タンパク質翻訳段階の活性指標となるS6K1や4E-BP1のリン酸化は経時的に増加することはなく、4E-BP1では減少した。4E-BP1などを制御するmTOR、その上流のAkt、Erkのリン酸化も増加する傾向が認められた。血中アミノ酸濃度から、Metは投与1時間で吸収のピークがあり、この段階で代謝も進んでいることが考えられた。 次に、C2C12筋芽細胞を筋管細胞に分化させてMetの作用を検討した。分化誘導後、血清飢餓状態で4時間培養し、次いでアミノ酸除去培地でMet処理した。その結果、MeHisの放出速度から評価したタンパク質分解速度はMet濃度に関わらず変化がなかった。オートファジー活性は、既に分解抑制作用が明らかになっているLysの添加では顕著な抑制が観察されたが、Metではオートファジー活性の減少は認められず、オートファジーを制御するAktのリン酸化もLysでは増加するのにもかかわらず、Metでは増加わずかであった。また4E-BP1やmTORのリン酸化は阻害された。 以上の検討から、Metはin vivoでは骨格筋タンパク質の分解を抑制するが、その作用はMet自身が骨格筋細胞で効果を示しているのではなく、Met以外の代謝産物やホルモンなどが作用している可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メチオニン(Met)のin vivoにおける骨格筋タンパク質分解抑制作用を確認においては、経時的な検討に加え、生理食塩水の投与群も設けて詳細な解析を行った。その結果、Metの骨格筋タンパク質分解抑制作用がロイシンやリジンとは異なる経時変化を示すことを明らかにした。また、骨格筋タンパク質分解抑制のメカニズムを解析するためにオートファジー活性の指標としてLC3-IとLC3-IIの発現だけではなく、ULK-1およびBexlin1の活性、p62についても評価を行った。さらに合成についてもmTOR上流の因子の活性の評価を行った。このような詳細な検討から、明確なMetの分解抑制作用を示すことができた。 C2C12細胞については、細胞の活性が不安定で再現性がある結果を得るのが難しかったが、最終的にC2C12筋管細胞ではMetが直接的に分解、合成をin vivoと同じように制御していないことを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
メチオニン(Met)のin vivoとin vitroの作用の相違を明らかにするために、Metの代謝産物について検討を行う。ラットを用いてMet投与後のホモシステイン、システインなどの血中、骨格筋中の濃度変化を明らかにする。必要があれば代謝産物の網羅的解析を行いたい。また、骨格筋タンパク質代謝に影響を及ぼすホルモンやサイトカインの濃度変化についても測定を行う。 これらの結果を受けて、Metにより変動する因子のC2C12細胞における作用を検討する必要があるが、C2C12細胞における各種因子の発現が細胞の状態により変動するので、より正確な培養系を確立する。また、オートファジーの活性をより正確に把握するためにオートファジーフラックスの測定を行う。Met投与したラットの血清を用いた検討は細胞の安定性の問題から28年度は実施でいなかったので、29年度行う。
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