研究課題
本研究では、日本人のn-3系脂肪酸の摂取状況の把握と、不足した場合の影響を、胎盤および母体血・臍帯血赤血球膜の脂肪酸組成と、出生パラメータおよび食事調査といった疫学データを用いた多変量解析により検討を行うとともに、解析結果より得られた仮説を元に、動物試験を行い、胎児へのn-3系脂肪酸の供給量 を調節する因子について明らかにすることを目的とする。平成28年度までの研究では、疫学データの解析と、胎盤脂肪酸組成の詳細分析から胎盤母胎面の脂肪酸 組成と出生パラメータとの関連性は、臍帯血赤血球膜脂肪酸とある程度類似した傾向を示すとする結果を得ている。本年度は平成28年度に測定した80検体の胎盤の母体側、胎児側について、検体提供者の背景等の精査を行い、出産年月が大きく異なる17検体を除いた63検体について、詳細な解析を行った。その結果、胎盤の母体面と胎児面の比較では、各脂肪酸の組成比は有意に異なるが、同じ脂肪酸同士は高い相関関係をもつことを明らかにした。さらに、胎盤と母体血・臍帯血赤血球脂肪酸組成比を比較した場合、多価不飽和脂肪酸において、ある程度の相関関係が見られ、胎盤採取部位 (母胎面・胎児面)の違いは、その相関関係の現れ方の傾向に、顕著な影響を与えなかったことを明らかにした。これらの結果について9月に行われた日本脂質 栄養学会にて、ポスター発表を行った。また、動物試験の準備としてGene Expression Omnibusを利用し、周産期ラットの肝臓・胎盤での多価不飽和脂肪酸の代謝に関する遺伝子発現量の精査を行うことで、候補遺伝子の選定を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度に目標としていた胎盤の母体面、胎児面といった採取部位の違いと母体血・臍帯血との関係性の解析は達成し、9月には成果発表を行うことができた。よって、おおむね順調に進展しているといえる。
平成30年度は、妊娠後期の母胎および胎児の脂肪酸組成の経時変化と遺伝子発現変化を明らかにするため、動物試験を行う。すなわち、妊娠ラットの母体血、母体肝臓、胎盤および胎児肝臓の脂肪酸組成分析を実施する。さらに、左記臓器より抽出したmRNAについて脂質代謝関連遺伝子の発現解析を行う。また、これまで実施してきた、妊娠中期(24-30週)の母体血赤血球、胎盤組織および臍帯血赤血球の脂肪酸組成分析に関する研究成果のとりまとめと報告を行う。
(理由)平成29年度はラットにおける胎児のDHA移行・蓄積に関する遺伝子発現解析で必要な関連遺伝子の選定のため、遺伝子実験に関連する試薬等の購入のための予算を計上していた。しかし、Gene Expression Omnibusを利用した遺伝子発現量の精査により、作業が大幅に効率化できたことから、遺伝子発現解析関係の消耗品の購入が最低限度となったため。(使用計画)本年度は動物試験での遺伝子発現解析の測定対象となる遺伝子を増やして実験を実施する計画である。
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