研究課題/領域番号 |
16K07734
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 剛 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10550311)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 褐色脂肪細胞 / 白色脂肪細胞 / 褐色化 / 肥満 / 核内受容体 / PPARalpha / FGF21 / UCP1 |
研究実績の概要 |
外因性因子が褐色脂肪細胞機能に与える影響を簡便に評価できる系の構築を試みた。平成28年度は、UCP1レポーター(蛍光レポーター・発光レポーターの2種)マウスより細胞を単離、不死化処理後にその有用性について評価した。まず、UCP1蛍光レポーターマウスより単離、不死化した細胞において、分化・増殖能等基本的性質について確認した後、蛍光強度とUcp1発現量との相関性を評価した。その結果、単離細胞群では、薬理刺激下においても蛍光強度が弱く、シングルセルクローニングを行ったものの、得られたいずれのクローン化細胞においても蛍光強度が弱く、評価系として応用困難であると判断した。そこで、UCP1発光レポーターマウスを用いて同様の実験を行った。発光レポーターにおいても単離細胞群においては発光強度が弱く、評価系としての使用は困難であると考えられた。現在、クローン化細胞を取得し評価中であるが、数クローンについては高い発光強度が認められたため、褐色脂肪細胞機能の簡便な評価系として、食品成分や外来遺伝子を対象としたスクリーニングへの応用が期待される。 核内受容体と褐色脂肪細胞機能の関連性の解明を目指し、検討を行った。平成28年度は、核内受容体PPARα活性化時の褐色脂肪細胞機能の亢進機構について中心的に検討を行った。その結果、PPARα活性化剤の投与は白色脂肪組織において、褐色脂肪細胞機能の亢進を来すことを見出し、肥満誘導条件下では、従来報告のあった抗中性脂肪血症作用のみならず、抗肥満・抗糖尿病作用を有することを示した。さらにPPARα活性化剤投与による抗肥満・抗糖尿病作用は、脂肪萎縮マウスおよびFGF21欠損マウスでは確認出来なかったことから、PPARα活性化剤による抗肥満・抗糖尿病作用には、FGF21の作用亢進を介した白色脂肪組織における褐色脂肪機能の亢進が重要な役割を果すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
褐色脂肪細胞機能の簡便評価系の樹立においては、UCP1蛍光レポーターマウス由来細胞を用いた際には、レポータータンパク質由来の蛍光強度が弱く、特異的な蛍光強度の検出が上手くいかなかった。しかしながら、UCP1発光レポーターマウスより単離・不死化した細胞においてはシングルセルクローニングを行うことによって、発光強度の改善が認められた。発光強度の改善が認められた細胞において、UCP1発現量と発光強度の相関性などについて今後明らかにしていかなければならないが、評価に耐えうると考えられる発光強度を示す細胞を得ることが出来た。 核内受容体と褐色脂肪細胞機能の関連性の解明という点については、PPARα活性化剤投与により、白色脂肪組織において褐色脂肪細胞機能の亢進が認められること、およびPPARα活性化剤投与が抗肥満・抗糖尿病作用を有することを見出した。さらに、脂肪萎縮マウス、FGF21欠損マウスを用いた検討より、PPARα活性化剤投与による抗肥満・抗糖尿病作用には、肝臓FGF21の発現亢進を介した、白色脂肪組織での褐色脂肪細胞機能の亢進が重要であることが示唆された。これらの知見は、核内受容体機能と褐色脂肪細胞機能の関連性を示す新たな知見である。
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今後の研究の推進方策 |
褐色脂肪細胞機能の簡便評価系の構築においては、平成28年度に得られた、高い発光強度を示すレポーター細胞の有用性について詳細に検討を続けていく予定である。具体的には、発光強度とUCP1発現の相関性について、様々な状況下で比較検討を行い、発光強度の変化がUCP1発現の変化を正しく反映するものであるかどうかについて明らかにする予定である。これらの検討を通じて、有用細胞の取得ができれば、褐色脂肪細胞機能を制御可能な食品由来成分や核内受容体をはじめとする新規遺伝子についてスクリーニングを行う予定である。 核内受容体と褐色脂肪細胞機能の関連性の解明については、平成28年度はPPARα活性化剤が肝臓に作用し、FGF21の作用を介して白色脂肪組織の褐色化を誘導することを見出した。引続き、PPARα活性化時の褐色脂肪機能亢進作用について検討していく予定である。平成28年度の研究において用いたPPARα活性化剤(fenofibrate)の体内動態を検討したところ、特に強く肝臓に集積し、脂肪組織への集積は低レベルであることが明らかになった。そのため、脂肪組織におけるPPARα活性化が褐色脂肪細胞機能に与える影響については未解明な部分が多く残されている。そこで、培養脂肪細胞を用いて、脂肪細胞におけるPPARαの直接的な活性化が褐色脂肪細胞機能に与える影響について、明らかにしていきたい。また、培養細胞を用いて、PPARα以外の核内受容体が褐色脂肪細胞機能に与える影響についても検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
褐色脂肪細胞機能の簡便評価系の構築において、2種類のUCP1レポーターマウスから細胞の単離・不死化・クローン化という同一の過程を経ることで、様々な性質の細胞が取得できたが、費用面でも当初想定したよりも試薬等の消耗品を効率よく使用することが出来たため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降、培養細胞を用いた実験を多く行っていく予定であり、多額な消耗品を要することが予想され、次年度使用額についてはこれらの消耗品に充てたいと考えている。特に近年、細胞培養に必須なウシ胎児血清の金額が高騰していることから、次年度使用額を用いて計画内容を達成できるよう努める予定である。
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