研究課題/領域番号 |
16K07735
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 健司 京都大学, 農学研究科, 教授 (00202094)
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研究分担者 |
自見 至郎 福岡大学, 医学部, 講師 (30226360)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 線維芽細胞 / Pro-Hyp / ペプチド / 創傷治癒 / 体性幹細胞 / コラーゲン / 皮膚 |
研究実績の概要 |
マウス(Balb/c) の皮膚片を種々の濃度の牛胎児血清 (FBS) 存在下で培養し遊走してくる線維芽細胞様細胞数へのPro-Hypの影響を調べた。その結果、いずれのFBS濃度でもPro-Hypの添加により遊走細胞数の増加が確認できた。さらに遊走してきた線維芽細胞様の細胞には複数方向へ伸展した扁平な細胞、2方向に伸展したスピンドル様細胞、および球状細胞が観察された。連続的に写真撮影を行うタイムラプスによりこれらの細胞は互いに変換し合うことを確認した。さらにこれらの遊走直後の細胞には体性幹細胞(somatic stem cell)マーカーであるp75NTRおよびPDGFRを持つことが明らかとなった。一方、増殖を繰り返すとこれらのマーカーを持たない細胞も観察された。またPro-Hypの添加により培養していた皮膚片の脂肪細胞周辺にこれらのマーカーをもった細胞数が増加することを見いだした。これらの結果は遊走してきた線維芽細胞は脂肪細胞周辺の体性幹細胞から分化してきた細胞であることが示唆される。またIn vivoの実験では、肥満を示し創傷治癒が遅延するdb/dbマウスの創傷治癒がPro-Hypの添加で促進され、また脂肪細胞周辺のPDGFR陽性細胞の増加を観察した。以上の結果から、Pro-Hypは脂肪細胞周辺の体性幹細胞の増殖を促進し、これらの細胞から線維芽細胞が分化し皮膚片外、または創傷治癒部に遊走することが示唆される。株化した線維芽細胞を用いた研究ではPro-Hypの影響が再現できないことが報告されている。今回の知見は従来の株化線維芽細胞を用いたモデルが必ずしも生体内での反応と一致しないことを示し、創傷治癒研究で重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitroの細胞試験で皮膚から遊走してきた線維芽細胞がFBS存在下で増殖せずに死滅することが何度かあった。今回皮膚に存在する毛を除去するのに除毛剤を用い、その成分であるチオグリーコール酸が細胞の増殖に悪影響を与えることに気がつき改善された。また線維芽細胞をコラーゲンゲル上に播種する際に、プレートから線維芽細胞を剥離する際に用いるトリプシン処理により細胞が障害を受ける場合があった。トリプシン溶液が培養温度よりかなり低くなっているためであることがわかり、この問題も解決した。後半では皮膚片中の細胞の免疫染色にも成功し、今後は遅れを十分取り戻すことが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
皮膚片からの細胞遊走試験では、遊走細胞のみではなく皮膚片中の体性幹細胞マーカーをもつ細胞数およびその形態へ及ぼすPro-Hypの影響をさらに調べ、昨年度観察した結果を確証する。さらに遊走してきた線維芽細胞をプレート上、コラーゲンゲル上で維持し、上記のマーカーの変化を調べる。マーカーを持つ細胞と持たない細胞が得られたら、これらの細胞に対するPro-Hypの取り込み能、およびPro-Hypによる増殖促進効果を比較し、両細胞のPro-Hypに対するレスポンスを明らかにする。もし、増殖を繰り返し、体性幹細胞マーカーが減少した細胞においてPro-Hypの取り込みが減少し、増殖促進が生じなければ、コラーゲンペプチドの作用は体性幹細胞からの分化刺激が生じている部位に限定され、創傷治癒が促進されるが、正常組織での線維芽細胞の増殖が生じない現象の説明が可能となる。またin vivoでも創傷部位、非創傷部位へPro-Hypを添加し創傷部位で特異的に体性幹細胞マーカーをもつ細胞が増加していることを確認する予定である。
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