昨年度までの結果で、マウス皮膚から遊走してきた細胞の一部に間葉性幹細胞マーカーである低親和性神経増殖因子受容体 (p75NTR)を持つものが存在することが明らかになった。最終年度はまず、敷石状に増殖する細胞がサイトケラチンで染色され、ケラチノサイトであることを確定した。p75NTRは皮膚を1日培養して遊走してきたほぼすべての線維芽細胞に発現していたが、ケラチノサイトには発現は見られなかった。また皮膚の培養を続けると、線維芽細胞は増殖するが、p75NTR陽性細胞は経時的に減少し、2週間後には1%以下にまで減少した。さらに4週間の培養によりp75NTR陽性細胞は完全に消失した。p75NTR陽性細胞を約1%含む2週間後の線維芽細胞を回収し、コラーゲンゲル上に播種し、コラーゲンペプチドを摂取した後に血中に上昇する Pro-Hyp (200 μM)を加えると、細胞数の増加と全細胞中のp75NTR陽性細胞比の増加が見られた。いっぽう、p75NTR陽性細胞を含まない4週間後の線維芽細胞には Pro-Hypの増殖促進効果は認められなかった。さらにFITCで標識したPro-Hypを培地に添加すると p75NTR陽性細胞のみが標識 Pro-Hypを取り込むことが明らかになった。以上の結果よりすべての線維芽細胞が Pro-Hypにより増殖が促進するのではなく、p75NTR陽性細胞のみが反応することが明らかになった。p75NTR陽性細胞は創傷部位に集積し、創傷治癒後にほぼ消失することが知られている。そのため、食事由来のPro-Hypは創傷部位の p75NTR陽性細胞の増殖を促進し、創傷治癒を促進するが、正常組織のp75NTR陰性細胞にはほとんど作用しないことが示され、コラーゲンペプチドの摂取が全身の線維芽細胞の増殖を引き起こさずに創傷治癒を促進することが説明可能となった。
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