研究課題/領域番号 |
16K07741
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松尾 洋介 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 助教 (10432981)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 紅茶 / カテキン / ポリフェノール / 酸化的二量化 / テアフラビン |
研究実績の概要 |
本研究では、紅茶製造過程で起こる茶カテキン類の酸化的二量化反応についての詳細なメカニズムを解明することを目的として以下の検討を行った。 ピロガロール型カテキンが酵素酸化を受けると主生成物としてデヒドロテアシネンシン類が立体選択的に生成するが、立体制御の原因については明らかとなっていなかった。デヒドロテアシネンシンCおよびB環由来部分の立体配置が逆のジアステレオマーについてDFT計算による最安定配座を調べた結果、デヒドロテアシネンシンCではA環同士でスタッキングした構造が最安定配座として得られた一方、ジアステレオマーではそのようなスタッキング構造を取れないことが分かった。さらに、デヒドロテアシネンシンCの1HNMRスペクトルは、重アセトン中と比べて重水中ではA環シグナルのケミカルシフトが大きく高磁場シフトしていた。この結果は、デヒドロテアシネンシンCは水中においてA環同士が疎水効果やπ-π相互作用によりスタッキングしていることを強く示唆しており、このことは重水中でのROE相関からも支持された。以上の結果から、水中におけるピロガロール型カテキンの酸化的二量化は、そのo-キノン体との間でA環同士の相互作用が働くことにより配座が制御されることで立体選択的に進行すると考えられた。 ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンが酸化的に縮合すると、ビシクロ[3.2.1]オクタン型中間体を経てベンゾトロポロン環を形成することによりテアフラビン類が生成する。テアフラビン類生成における立体選択性の解明を目的として、ラジカル酸化剤DPPHを用いたアセトン中における簡易合成法を新たに開発した。本合成法を利用して、今後テアフラビン類生成の立体選択性を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、紅茶製造過程で起こる茶カテキン類の酸化的二量化反応についての詳細なメカニズムを解明することを目的として次の成果が得られた。ピロガロール型カテキンの酵素酸化により主生成物としてデヒドロテアシネンシン類が立体選択的に生成するが、A環同士のπ-π相互作用や疎水効果が働くことにより配座が制御されることで立体選択的に二量化が進行することを明らかにした。さらに、ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンの酸化的縮合によって生成するテアフラビン類について、その立体選択性を解明するために必要な、非プロトン溶媒中における簡易合成法を開発した。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
水中でピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンが酵素酸化を受けると、ビシクロ[3.2.1]オクタン型中間体が生成後、水の付加等を経て最終的にベンゾトロポロン環が生成する。この一連の反応は自発的に進行するが、非プロトン性溶媒中では水の付加が起こらないためビシクロ[3.2.1]オクタン型中間体の生成で反応が止まる。テアフラビン類生成における立体選択性を解明するためにはビシクロ[3.2.1]オクタン型中間体の立体構造を明らかにすればよいが、28年度の研究によって非プロトン性溶媒中におけるテアフラビン類の簡易合成法を開発した。本方法ではビシクロ[3.2.1]オクタン型中間体が生成後、反応液に水を加えることによってテアフラビン類に変換するが、水の代わりに求核剤を加えれば、B環由来部分に不斉を残した誘導体に変換できると考えられる。そこで、29年度はその誘導体の構造を明らかにすることによってテアフラビン類生成の立体選択性を解明する。さらに、ビシクロ[3.2.1]オクタン型前駆体についてDFT計算を利用した計算化学的解析を行う。 この他に、カテキン類の部分構造を持つ、よりシンプルなモデル化合物(フロログルシノール、3,4-ジヒドロキシベンジルアルコールなど)や、茶カテキン類の立体異性体(ガロカテキンなど)についても酸化生成物について検討を行う。これによって、カテキン類の各部分構造における反応性の違いや立体構造の違いによる酸化生成物や反応性・立体選択性の違いを解明できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行う予定であった実験の一部を次年度に変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分として請求した助成金と合わせて、研究に必要な物品費として使用する。
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