研究課題/領域番号 |
16K07744
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
井手 隆 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (20127971)
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研究分担者 |
折口 いづみ 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 助手 (50783396)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝臓脂肪酸酸化 / 肝臓脂肪酸合成 / 多価不飽和脂肪酸 / γ-リノレン酸 / ラット / マウス |
研究実績の概要 |
γ-リノレン酸(GLA)はラットにおいて肝臓脂肪酸酸化を上昇させ、脂肪酸合成を抑制する。前年度ApoE欠損高脂血症マウスモデルを用いた実験ではGLAはラットでよりもはるかに大きく脂肪酸酸化活性を上昇させることを示し、GLAを含めた多価不飽和脂肪酸(PUFA)に対する代謝応答に種差があることが推察された。そこで本年度は汎用マウス系統、ICRマウスの肝臓脂肪酸代謝へのPUFA高含有油脂の影響を精査した。雄マウスを5群に分け(各群7~8匹)、各種油脂を 10%含む飼料を20日間与えた。用いた油脂はパーム油(飽和脂肪)、サフラワー油(リノール酸、79%)、GLA高含有油(月見草油由来;GLA、42%)、エゴマ油(α-リノレン酸、64%)と魚油(EPA・DHA、42%)である。種々PUFA含有油脂はパーム油と比較し、多くの脂肪酸合成系酵素の活性とmRNA量を低下させた。低下は魚油で最も大きかった。一部例外はあるが他のPUFA含有油脂間では差がなかった。サフラワー油以外のPUFA含有油脂はパーム油と比較し脂肪酸酸化系酵素の活性とmRNA量を増加させた。GLA油と魚油で増加が特に大きかった。また、GLA油と魚油は脂肪酸酸化系酵素以外のPPARα依存性遺伝子のmRNA量も大きく増加させた。PUFA含有油脂はパーム油と比較し、転写因子SREBP-1、PPARα両者の標的遺伝子であるリンゴ酸酵素、ステアロイル-CoA不飽和化酵素1、Δ5-およびΔ6-不飽和化酵素のmRNA量を低下させたが、GLA油では変化がなかった。ICRマウスにおいて月見草油由来GLA高含有油脂は魚油と同様PPARαの活性化を介し、様々な脂質代謝関連遺伝子の発現を大きく変化させることが推察された。この効果はラットで観察されているよりもはるかに大きいと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はGLA高含有油脂にセサミンの肝臓β酸化活性を増強する効果があることを初めて明らかにした。さらに、高脂血症モデル動物であるApoE欠損マウスを用いた実験で、GLA高含有油脂が肝臓の脂肪酸酸化活性を顕著に増加させ、有効に血清脂質濃度を低下させることを明らかにした。以上の実験の結果、ラットとマウスではGLA高含有油脂に対する応答性がかなり異なることが予想された。このことから、29年度は汎用系統マウスであるICRマウスを用い各種多価不飽和脂肪酸含有油脂の生理効果を調べた。その結果、ICRマウスでもGLA高含有油脂が肝臓の脂肪酸酸化活性を顕著に増加させることが確認された。この効果はラットでみられる変化と比べ大きなものと推察され、現在Sprague Dawleyラットを用い同一組成の飼料を与えたときの影響を解析している。代謝応答性の種差の明確化は動物実験を行っていく上で極めて重要な知見である。これは副次的な成果となるが、最終年度は本研究の目的に沿って共役リノール酸とGLA高含有油脂の相互作用について、病態モデルマウスおよび通常マウスを用い解析を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果からICRマウスにおいてもγ-リノレン酸高含有油脂が肝臓の脂肪酸酸化活性を大きく増加させることが確認され、この代謝応答がApoE欠損マウス特有に見られる現象ではなく、マウスという動物種で一般的に見られるものであることが強く示唆された。現在、ラットにマウスでの実験で用いたものと同一組成の飼料を与えた後解剖し、得られた生体試料について酵素活性・mRNA量の測定などの解析を行っている。マウスで得られ結果と比較することでラットとマウスの代謝応答性の違いについて明確にできると期待される。この成果は副次的なものになるが、最終年度となる30年度は肥満・糖尿病モデルマウス(KK-Ay)および汎用マウス系統(ICR)を用いて、共役リノール酸(CLA)とγ-リノレン酸高含有油脂が肝臓の脂肪酸代謝と脂肪組織の遺伝子発現に与える相互作用について検討する。CLAは強力な抗肥満作用を示す成分であるが、その一方で肝臓脂肪酸合成を増加させることで肝臓脂肪蓄積という好ましくない現象も引き起こす。γ-リノレン酸高含有油脂は脂肪酸酸化を亢進するので、CLAとγ-リノレン酸高含有油脂の組み合わせ摂取はCLAの抗肥満作用維持しつつ、CLA摂取に伴う肝臓脂肪蓄積を抑制するものと期待される。現在までのところ、研究推進上の大きな問題点はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
228年度の使用計画として、転写因子の動態をウエスタンブロットによりタンパク質レベルで解析する装置としてウエスタンブロットイメージングシステムC-Digitの購入(121,5000円)を計画していたが、幸い大学の予算で購入できた。また、他に必要な電気泳動装置、タンパク質転写装置、パワーサプライなども同じく大学予算でそろえることができたため、28年度末にかなりの未使用額が生じた。29年度、研究遂行に必須の実験動物、脂質分析、酵素活性、mRNA分析等に必要な試薬・消耗品の購入に使用するとともに、タンパク質レベル解析手法のセットアップのための消耗品等の購入に多くを充て、データもようやく取得できる状態となった。しかし、28年度の未使用額が大きかったため、29年度もいくらかの未使用額が発生した。30年度は最終年度であるため30年度配分される研究費と合わせ、従来通り必要な試薬・消耗品の購入にあてるとともに、成果発表に必要な費用(論文掲載料、学会発表のための旅費)にも多くをあて使用していく。
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