研究課題
レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI/TOF/MS)を用いたプロテオーム解析で構造決定したラクトフェリン(LF)結合成分の中に、LF自体が加水分解された分解物が数種類含まれていることが明らかとなった。これらは乳中に含まれるプラスミンによって分解された断片であると考えられた。その中で最も分子量の大きい断片は、LFのC-lobe領域(分子量およそ38kDa)に相当するタンパク質であったが、C-lobe領域に含まれる複数のペプチドフラグメントも存在した。その一つである分子量1.4kDaのペプチド(LF13領域)については、LFの抗齲蝕作用の活性中心であることが報告されている。LFの抗齲蝕作用は、Lf13領域が唾液タンパク質SRCRP2に結合することで、S. mutansの表層タンパク質と唾液タンパク質との相互作用を阻害することで生じると考えられている。そこで、LfのC-lobe領域とLF13領域を、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーで分離精製した。多段階クロマトグラフィーで精製した高純度LFとともに、C-lobe領域とLF13領域について、唾液タンパク質との相互作用をX線結晶構造解析およびNMR解析で調べた。その結果、高純度LFは唾液タンパク質と強く結合したが、C-lobe領域およびLF13領域は相互作用を示さなかった。したがって、LFと唾液タンパク質の相互作用は、先行研究で報告されていた領域とは異なることが示唆された。すなわち、LFと唾液タンパク質との相互作用については、N-lobe領域に相互作用部位が存在するか、N-lobe領域およびC-lobe領域が協働することで相互作用が可能となるものと考えられた。
3: やや遅れている
本研究において主要な実験設備であるHPLCシステムのオートサンプラが故障し、不具合解消の対応に時間を要したため研究の推進に支障が出た。
故障したオートサンプラの修理が困難であることが判明したため、計画外ではあったが当該年度の予算内で新規オートサンプラを導入した。これにより今後はLF結合成分の分離精製操作が順調に推進できるものと予想される。
次年度使用額(当年度予算残額)については、実験に使用する試薬類を購入するためには不足していたため、次年度予算と合算して有効に活用したい。
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