アルツハイマー病は脳内でインスリンシグナルに異常があることから、3型糖尿病ともいわれている。しかし、脳の病気であるアルツハイマー病と肥満や糖尿病が合併した場合、アルツハイマー病病態が重篤化するかは不明である。本研究は①アルツハイマー病モデルマウスに高脂肪食を与え肥満を誘導した際、アルツハイマー病病態が重篤化するか、②食品成分により肥満を改善することでアルツハイマー病病態を予防可能か検討を行った。 まず、多価不飽和脂肪酸を多く含む魚油含有高脂肪食給餌による食餌誘導性肥満改善メカニズムの解明を行った。魚油含有高脂肪食給餌はラード含有高脂肪食と比べて顕著な体重増加の抑制、ミトコンドリアの増加に伴う鼠径部白色脂肪組織の褐色化、体熱産生に関与する脱共役タンパク質1(Ucp1)の発現上昇を引き起こした。しかし、マウスの深部体温を測定したところ、魚油高脂肪食給餌マウスではラード含有高脂肪食と比べて明期の体温が低下したことから、魚油含有高脂肪食給餌による肥満改善メカニズムには、Ucp1の発現上昇による体熱産生亢進を介したものではないことが明らかとなった。 さらに、アルツハイマー病モデルマウスを用いて肥満がアルツハイマー病病態に及ぼす影響を新規物体認識試験により評価した。ラード含有高脂肪食を給餌して肥満を誘導したアルツハイマー病モデルマウスでは、標準体型のアルツハイマー病モデルマウスと比べて認知機能の低下が認められた。魚油含有高脂肪食を給餌したアルツハイマー病モデルマウスでは、ラード含有高脂肪食給餌のアルツハイマー病モデルマウスよりも体重増加が抑制され、新規物体に対するアプローチ時間の増加が認められた。 以上の結果から、肥満はアルツハイマー病病態を悪化させること、肥満を改善する食品成分はアルツハイマー病病態を改善することが明らかとなった。
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