我々は、低タンパク質食摂食によって起こる肝臓中性脂肪蓄積に、肝臓における翻訳抑制因子4E-BP1の量的増加が必要であることを見出してきた。本研究は、低タンパク質栄養によって増加する肝臓4E-BP1が、肝臓に中性脂肪を蓄積させる機構の解明を目指している。 我々は、昨年度までに、低タンパク質食摂食によって肝臓4E-BP1量が増加すると共に、肝臓4E-BP1・eIF4E複合体量も増加することを明らかにしてきた。また、4E-BP1と競合してeIF4Eと複合体を形成する翻訳開始因子eIF4Gについて検討を加えた結果、低タンパク質食摂食によって肝臓eIF4G量は増加するが、eIF4G・eIF4E複合体量は変化しないことを見出した。一般に、全体的なタンパク質の翻訳が抑制されている際には、4E-BP1・eIF4E複合体量が増加し、eIF4G・eIF4E複合体量は減少する。しかし、低タンパク質栄養状態の肝臓では、4E-BP1・eIF4E複合体量が増加するにもかかわらず、全体的なタンパク質の翻訳は抑制されておらず、eIF4G・eIF4E複合体量も減少しなかった。他の結果も併せて考えると、低タンパク質食によって増加する4E-BP1とeIF4Gが糖・脂質代謝調節因子の翻訳を選択的に調節して肝臓に脂質を蓄積させる機構の存在が示唆された。 そこで、平成30年度は、4E-BP1とeIF4G、両方の因子を肝臓で強制的に増加させた際の肝中性脂肪量の解析をするために、eIF4G発現アデノウイルスを新たに作製し、これを用いて肝臓eIF4G過剰発現ラットの作製を試みた。その結果、1010 pfu量のeIF4G発現アデノウイルスを投与すると、肝臓でeIF4Gを強制発現させることが可能であることがわかった。
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