研究課題/領域番号 |
16K07754
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沼田 靖 日本大学, 工学部, 教授 (10218266)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラマンスペクトル / 脂肪酸 / 異性化反応 |
研究実績の概要 |
不飽和脂肪酸にはシス体とトランス体が存在するが体内でトランス脂肪酸の量が増加すると動脈硬化などの血管疾患が起こりやすくなることが知られている。そのため、食品や体内での脂肪酸の定量をその場(in situ)でかつ簡便な方法で行うことが切望されている。そこで本研究では、ラマン分光法を用いて、シスおよびトランス脂肪酸の定量分析法を開発し、食品中のシス体に対するトランス体の割合を測定することを第一の目的とする。 まず試料として用いるのは二重結合をひとつ有するオレイン酸とそのトランス体であるエライジン酸である。濃度既知の試料のラマンスペクトルを測定し、濃度に対してラマン強度をプロットすることによりそれぞれの脂肪酸の検量線を作成した。今年度はオレイン酸およびエライジン酸のラマンスペクトルを測定し,その二階微分スペクトルを多変量解析によって解析すると,非常に誤差の少ない定量が可能であることを示した。その方法を用いてオレイン酸とエライジン酸の混合溶液のラマンスペクトルを測定し,混合成分比を精度良く求めることができた. 次にトランス体は植物油を加熱した際にシス体から生成されることが知られているのでその反応メカニズムを明らかにするために加熱しながらどのくらいの割合で異性化するかをin situで調べる必要がある。そのために先の方法で確立した分析法でシス体とトランス体の定量を行い、熱異性化のメカニズムを解明する実験を行った。今年度は購入した温度変調セルを用いて,種々の温度でスペクトルを測定したが,この実験では温度を100℃まであげてもシス体からトランス体に異性化する反応は起こっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では脂肪酸のシス体とトランス体の割合をラマン分光法を用いて調べようとするものである.本年度では,シス体であるオレイン酸とトランス体であるエライジン酸の同時定量を行うためラマンスペクトルを測定した。ふたつの脂肪酸のスペクトルは非常によく似ていおり,ラマンピークの出現エネルギー位置はほとんど同じであった。しかし,1660 cm-1付近に現れているC=C二重結合の伸縮振動に帰属されるピークは12 cm-1離れて観測された。このピークを使って定量分析を行うわけだが,これらのピークのテールは重なっていて,混合物になると定量をするのは困難である。そこで,二階微分することで,スペクトルのピーク分離を行った。その結果,二階微分スペクトルではふたつのピークはよく分離されていた。この二階微分したスペクトルを多変量解析PLS回帰を用いて解析した。まず、既知濃度での試料を用いて回帰モデルを作成し,それを用いて,濃度既知試料の混合試料のスペクトルから,シス体とトランス体の濃度を求めたところ,仕込み濃度と計算値が非常によく一致した。ここまでの結果を平成28年度分析化学討論会で発表を行った。 これで,同時定量ができる方法を確立したので,次に平成29年度に購入した,温度変調装置を用いて,シス体のオレイン酸を100℃まで温度を加えてスペクトル測定を行ったが,現在のところ,シス体からトランス体への異性化反応は見られていない.これは温度変調装置が密閉で行われているため、異性化反応には酸素が不足している可能性がある。そこで,次の段階として酸素雰囲気下で加熱を行うことや,温度をさらに上げてみる方法を試みる
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究の最終年であるので,オレイン酸,エライジン酸混合物のラマンスペクトルと多変量解析を使ってそれぞれの脂肪酸が同時定量可能であるということまで明らかにできたので,ここまでの内容をFood Chemistry に投稿する予定である。 また,実験では温度変化の実験をさらに進めて,脂肪酸のシスートランス異性化反応と温度の関係を調べることを行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
温調装置の実験において,予定より試料の使用量が少なくても実験を行なえるようになり,試薬試料代で計上してた消耗品費を使わなかったため。また,予定していた学会を一つ行かなかったため。 翌年度にオレイン酸とエライジン酸や他の不飽和脂肪酸の購入及び分析化学年会へ参加するための旅費として使用する予定である。
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