不飽和脂肪酸にはシス体とトランス体が存在するが体内でトランス脂肪酸の量が増加すると動脈硬化などの血管疾患が起こりやすくなることが知られている。 そのため、食品や体内での脂肪酸の定量をその場(in situ)でかつ簡便な方法で行うことが切望されている。そこで本研究では、ラマン分光法を用いて、シス およびトランス脂肪酸の定量分析法を開発し、食品中のシス体に対するトランス体の割合を測定することを第一の目的とする。 まず試料として用いるのは二重結合をひとつ有するオレイン酸とそのトランス体であるエライジン酸である。濃度既知の試料のラマンスペクトルを測定し、濃 度に対してラマン強度をプロットすることによりそれぞれの脂肪酸の検量線を作成した。今年度はオレイン酸およびエライジン酸のラマンスペクトルを測定し, その二階微分スペクトルを多変量解析によって解析すると,非常に誤差の少ない定量が可能であることを示した。その方法を用いてオレイン酸とエライジン酸の 混合溶液のラマンスペクトルを測定し,混合成分比を精度良く求めることができた. ここまでの成果をJournal of Molecular Structure に投稿した。 次にトランス体は植物油を加熱した際にシス体から生成されることが知られているのでその反応メカニズムを明らかにするために加熱しながらどのくらいの割 合で異性化するかをin situで調べる必要がある。そのために先の方法で確立した分析法でシス体とトランス体の定量を行い、熱異性化のメカニズムを解明する 実験を行った。今年度は購入した温度変調セルを用いて,種々の温度でスペクトルを測定したが,この実験では温度を100°Cまであげてもシス体からトランス体 に異性化する反応は起こっていない。より高い感度でスペクトルを得るために表面増強ラマン法を用いて定量分析を試みた。
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