研究課題/領域番号 |
16K07757
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
米谷 俊 近畿大学, 農学部, 教授 (70503449)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 麹醗酵 / きなこ / 大豆 / 血圧降下作用 / 効率化 |
研究実績の概要 |
これまで、(株)向井珍味堂から提供されたきなこ醗酵エキス(きなこを醤油麹で室温、90日間醗酵させたもの)をエタノールで脱塩し、これを脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)に経口投与したところ、強い血圧降下作用を示した。但し、本醗酵エキスは、生成に長期間(90日)かかること、その間の醗酵が充分制御されていないこと、このためコンタミネーション防止を目的に多量のNaClを使用し、醗酵終了後に脱塩の必要があることなどから、機能性食品素材として応用するには、解決すべき課題が多い。また、麹醗酵を用いた同様の研究が数多くされているが、同様の課題があり、実用化には至っていない。 麹醗酵は、日本の伝統的な技術であり、大手企業や中小企業においても高い技術を有している。そこで、この技術を用いた生理活性物質の製造法が実用化できれば、日本の食品産業の発展のみならず、地方産業の活性化にも繋がると考えた。 本研究では、「醗酵」を麹菌が分泌する各種の酵素が行う化学反応と捉えた。すなわち、化学反応であれば、(酵素が失活しない範囲で)温度が10℃上昇すれば、反応速度は2倍になり、生理活性物質の生成も効率的に行われる。反応期間が短縮できれば、その制御もしやすくなり、NaCl量の減少や不使用も可能と考えられる。 本醗酵エキスは、原料が大豆であるため、得られる生理活性物質は、たんぱく質が麹菌の酵素により分解されたペプチドであることも考えられる。そこで、焙煎度が違えば、大豆たんぱく質の熱変性度合いが変わり、既存のものとは違うペプチドが生成すると考え、2種類のきなこ(低焙煎;150℃、2分間、高焙煎;190℃、13分間)を用いた。 その結果、低焙煎きなこを用い、醗酵温度40℃、3~8日間で、指標としたangiotensin converting enzyme(ACE)阻害活性80%以上を得る条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、低焙煎きなこを50℃で32日間醗酵させた。その結果、醗酵開始当初(3日目)には、きなこ醗酵エキスのACE阻害活性は70%を超えたが、5日目以降32日目までほぼ50~60%で推移した(25℃の醗酵では32日目で、阻害活性は35%)。この結果から、醗酵当初に血圧降下作用を有する生理活性物質が産生され、その後、一定量を保持していると考えられた。 次に、高焙煎きなこを40℃と50℃で10日間醗酵したところ、共に、ACE阻害活性20~40%の醗酵エキスが得られた。一方、低焙煎きなこは、40℃の醗酵で3~8日で、阻害活性が80%以上であり、9、10日目ではやや低値を示した(阻害活性60%程度)。50℃の醗酵では、阻害活性は、40℃の時よりも10%程度低値で推移した。したがって、きなこは、低焙煎のものを用いることとした。 そこで、低焙煎きなこを30℃、40℃、50℃、60℃で10日間の醗酵を行った。30℃の醗酵では、得られた醗酵エキスのACE阻害活性は、20~50%で推移し、40℃では、3~8日で阻害活性が80%以上であった。50℃では、40℃の時よりも阻害活性では10%程度低値で推移し、60℃でも50℃の時と同様であった。したがって、低焙煎きなこを40℃で3~8日間醗酵させた時に、ACE阻害活性が80%以上であることが明らかとなった。 そこで、この条件で大量に仕込み、得られた醗酵エキス1000 mLをAutofocusing装置(調製型等電点電気泳動)で分画した。泳動後の画分No5(pH3.5)、画分No6(pH4.0)、画分No7(pH8.0)、画分No8(pH9.0)のACE阻害活性は、それぞれ70%、75%、90%、50%であった。阻害活性の高かった画分No7を濃縮し、8~10週齢の雄性SHRSPに経口投与して、血圧降下作用を確認する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
SHRSPへの画分No7の経口投与で血圧降下作用が確認できれば、その中の生理活性成分の精製を実施する(そうでない場合は、他の画分の阻害活性が高いものからSHRSPに投与し作用を確認する。画分No5、No6は、等電点が4付近であるため、No7、No8(等電点は8~9)とは違う構造のものと推定される)。 低焙煎きなこと高焙煎きなこで生成した生理活性物質が違うと考えられ(ACE阻害活性にかなりの差があるので)、予想通りペプチドである可能性もある。そこで、C18カラムやイオン交換カラムなどを用いて、部分精製を行い、その画分をHPLCにより精製する(In vitroでの血圧降下作用の指標は、これまで通りACE阻害活性を用いる)。その後、LC/MSなどにより、目的の生理活性物質の構造を解析する。 構造解析ができれば、それを化学合成し、SHRSPに経口投与して、血圧降下作用を確認する。但し、この強い血圧降下作用が複数の生理活性物質の相乗効果により発現されている可能性があり、その場合には、解析が困難になる。状況により判断するが、(その時点で)最も高いACE阻害活性を示す、または、生成量が多いと考えられる生理活性物質にターゲットを定め、その構造を解析する。そして、応用の際には、混合物として利用するが、解析できた物質を生理活性の関与成分として用いることとする。 本年度の結果では、40℃で醗酵すれば、比較的短時間(8日程度まで)で醗酵できることがわかった。そのため、上記のin vivoの結果が良ければ、NaCl低減(または不使用)の醗酵で、目的物質生成後の精製の効率化についても検討したい。醗酵制御のために添加するNaCl量が低減できれば、麹菌の酵素が働きやすくなり、さらに効率的に目的物質が生成できる可能性がある。これも実用化に向けてのメリットとなる。
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