麹醗酵は、日本の伝統的な食品加工技術であり、大豆(きなこも含めて)は、日本人の重要な栄養源かつ機能性物質の供給源である。本研究では、これらを組み合わせて、効率的に機能性食品を創製することを目的とした。通常の麹醗酵では、麹菌の最適生育・増殖条件を考え、15~25℃で数か月の培養条件をとっているが、本研究では、醗酵は微生物による酵素反応と捉え、酵素の熱失活が起こらない範囲で最高の温度をとるようにした。その結果、40℃、50℃で20~30日間の培養が、血圧降下作用の指標としたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性が高く、それ以上醗酵時間を延長しても阻害活性は増加しなかった。つまり、阻害物質は一定の反応で蓄積され、その後分解などは起こらなかった。また、25℃で90日以上の長期培養しても、ACE阻害活性は、高温条件の場合と同様のレベルに達した。 また、高焙煎処理(190℃、13分)きなこの醗酵エキスは、低焙煎処理(150℃、2分)きなこのそれに比べ、ACE阻害活性は低く、焙煎によりきなこ中のたんぱく質が強く変性し、阻害活性を持つペプチドの生成が抑えられたと考えられた。 そこで、低焙煎処理きなこを用いて、40℃で20日間培養した培養液を調製型等電点電気泳動(Autofocusing)にかけると、pH3.5、pH4.0、pH7.0、pH9.0の4つの画分にACE阻害活性が回収され、これらは、たんぱく質から生じたペプチドと考えられた。pH4.0画分には、既にACE阻害活性が報告されているニコチアナミンが存在することから、活性の一部はこれが担っているものと考えられた。 これら画分を濃縮し、8~10週齢の雄性 脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)に経口投与したところ、各画分に分離する前のきなこ醗酵エキスのような高い血圧降下作用は示さず、各成分が相乗的に効いていると考えられた。
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