研究課題/領域番号 |
16K07758
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
角川 幸治 広島工業大学, 生命学部, 教授 (60441507)
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研究分担者 |
田中 武 広島工業大学, 工学部, 教授 (10197444)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プラズマベースイオン注入法 / 耐熱性芽胞 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
プラズマベースイオン注入(PBII)法を用いた殺菌技術の食品への応用を目指し、食品製造時に問題となる耐熱性芽胞菌への殺菌効果を検証した。まず、Geobacillus stearothermophilusについて、ガス種としては酸素、印加電圧(0kV~-6kV)、RF電源(0VA~240VA)、処理時間(10min ~40min)という条件で変化させ殺菌処理を行った。その結果、印加電圧-6kV、RF電源240VA、処理時間40minの時に、5Dの殺菌効果を得た。一方、同条件でClostridium sporogenesを処理した場合、3Dの殺菌効果を得た。 次に、PBII法を用いた際のプラズマ生成法の検討を行うため、プラズマシミュレーションソフト(ペガサス社製PIC-MCCM)を用いて、PBII法を用いた際のプラズマのシミュレーション行った。現在まで、ガス種を Ar, 電圧 100V, 周波数13.56MHz としてシミュレーションを行った。その結果、Ar+、 Ar2+、 Ar3+、Ar4+が放電増加と共に, 減少していることが観察され、プラズマイオンの量の変動が、放電開始後約20μsで起きていることが示唆された。これは、予備実験としてG. stearothermophilusの芽胞を用いて実施したパルス幅依存性試験の結果と良い相関を示した。今後は、実際の殺菌条件に近いところでシミュレーションを繰り返し、食品に最適なプラズマ生成条件を特定していく予定である。 また、これまでの実験結果から、耐熱性芽胞の殺菌には、1つの高圧パルス電源からプラズマ生成及び高圧電圧印加が可能な自己点弧型プラズマの利用が有望であることが明らかになった。今後は、自己点弧プラズマを用い、パルス電圧やパルス幅など、各種パラメーターについて検討を行い、食品の殺菌に最適なプラズマ制御法を決定していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち、Geobacillus stearothermophilus及びClostridium botulinumの殺菌条件決定用指標菌であるC. sporogenesの耐熱性芽胞に対するPBII法の殺菌効果の検証については、3D~5Dの殺菌効果を得ることの出来る処理条件を特定できた。課題としては、菌種の違いにより、殺菌効果に大きな違いが出ることが確認出来た事があげられる。これまで、科研費以外の研究も含め、Bacillus subtilis、C. sporogenes、G. stearothermophilusの3菌株の耐熱性芽胞について殺菌効果の検証を行ったが、3D~5Dの殺菌効果を得ることは出来たものの、その殺菌条件は菌毎に異なっており、PBII法を用いた殺菌処理には菌依存性が存在することが明らかになった。また、レトルト殺菌装置と同様の性能を求めるのならば、耐熱性芽胞については12Dの殺菌効果が必要となる。本研究では、一般食品の殺菌を念頭に置いているため、レトルト食品の殺菌に必要となる12Dの殺菌効果までは必要としない。しかし、将来的に、汎用の食品用殺菌装置の開発を目指す場合、出来るだけ菌依存性の影響が出ないような殺菌条件を見いだす必要がある それにも関連するが、耐熱性芽胞の殺菌に影響を及ぼすと考えられるパラメーターについても絞り込みを行う事が出来つつある。本年度購入したシミュレーションソフトを用いたプラズマ生成法の検討についても、実際の実験結果と良い相関を示すことが確認出来た。今後、シミュレーションソフトを併用しながら、食品の殺菌に最適な条件の特定が出来るものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、3D~5Dの殺菌効果を得ることの出来る殺菌条件を特定することが出来た。次年度は、主としてGeobacillus stearothermophilusを調査対象とし、プラズマ生成のシミュレーションソフトのシミュレーション結果を併用しながら(1)ガス種及びガス種の組み合わせ、ガスの流量、ガスの濃度、処理圧力、を検討するのに加え、(2a)自己点弧プラズマの使用、(2b)最適なパルス電圧、パルス幅を実験的に特定、(2c)高圧パルス電圧印加周波数に対して、パルス数のみ依存する条件を実験的に特定、(2d)プラズマの発光分光を計測し食品に利用できるプラズマの確認、という流れで研究を行い、食品の殺菌に最適なプラズマ生成法及び制御法を特定していく予定である。 また、PBII法を用いた芽胞の殺菌メカニズムの解明のため、電子顕微鏡を用いた芽胞の表面状態の観察を行う。PBII法では、プラズマイオンの衝突が殺菌効果をもたらしていると予想されているが、処理条件毎に芽胞の表面状態の観察を行う事で、PBII法を用いた殺菌効果が、芽胞の物理的損傷によるものなのかどうかを明らかにする。 更に、PBII法を用いた実食品の殺菌について、予備検討に入る。具体的には、一般的に殺菌が困難とされる香辛料や粉体状食品、生野菜などの殺菌処理を行い、殺菌状態の確認を行うと共に、食品の品質劣化状況について予備調査を行う。 平成29年度は、上記の様な研究を行い、PBII法を用いた実食品の殺菌処理に関し、メカニズムの解明と共に実用化に向けた基礎データの取得を行っていく。
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